【論文:アブストラクト】

2019年3月 4日 (月)

選択的D3受容体阻害薬は統合失調症の急性増悪に有効である。二相試験の結果

Randomized, double-blind, placebo-controlled study of F17464, a preferential D3-antagonist, in the treatment of acute exacerbation of schizophrenia

Istvan Bitter et al.
Neuropsychopharmacology (2019)

抄録全訳
F17464は選択的D3受容体阻害剤であり、新規向精神病薬の新規の候補薬である。本報告は二相試験で、二重盲検、無作為化、プラセボ対照並行試験である。ヨーロッパで5カ国で行った。F17464を20mg/dayを、1日2回、6週間投与した。患者は急性増悪した患者を対象とした。43日後のPositive and Negative Syndrome Scale (PANSS) の変化量を評価した。全体で134人が参加し、実薬群、プラセボ群とそれぞれ67名が割り当てられた。統計解析はLOCF(Last Observation Carried Forward)による共分散分析であった。結果は、主要評価項目のPANSS合計点は、実薬群でプラセボ群よりも有意に改善した(p=0.014)。多重挿入法による共分散分析では実薬群で優位な改善傾向があるものの群間差はなかった。PANSS陽性症状得点、精神病理得点、MarderによるPANSS5因子モデルの陽性症状得点、PANSSの改善割合、PANSSのいくつかの項目での3点以下の項目数はLOCF法で、実薬群で有意に改善していた。有害事象は実薬群で49.3%、プラセボ群で46.3%見られた。実薬群で見られた有害事象は不眠、アジテーション、トリグリセリドの増加、精神症状の悪化であった。興味深いことに、体重増加、アカシジア以外の錐体外路症状は見られなかった。結論として、1日40mgのF17464の6週間の投与は統合失調症の急性増悪を安全に改善させることが示された。

コメント
アミスルピリド、カリプラジン、ブロナンセリンなど、D3阻害作用が、陰性症状の改善に寄与していると考えられているが、本報告では選択的D3受容体阻害薬が陽性症状を改善させたということで興味深い。

2011年3月27日 (日)

抗うつ薬のミルタザピンの付加療法は統合失調症の認知機能障害を改善させる

More evidence on proneurocognitive effects of add-on mirtazapine in schizophrenia.
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2011 Mar 17.
Stenberg JH, Terevnikov V, Joffe M, Tiihonen J, Tchoukhine E, Burkin M, Joffe G.

アブストラクト全訳
統合失調症の治療において神経認知機能を改善させることは重要である。我々が以前に行った治療抵抗性統合失調症患者を対象とした抗うつ薬のミルタザピンを定型抗精神病薬に付加して6週間観察する無作為割り付け研究では、陰性症状だけでなく、陽性症状、認知機能障害も改善した。今回の研究はミルタザピンをもっと長期に付加するとより神経認知機能障害が改善するかどうかを検討することである。無作為に割り付けられた患者群で、オープンラベルでのミルタザピン付加療法を6週、12週投与できる患者を対象にした。結果について、6週以降の段階ではミルタザピン付加群とプラセボ投与群の双方で、複数の神経認知機能の領域の改善が見られた(豊巻注:これは認知機能検査の反復施行による練習効果)。6週まではプラセボで、それ以降はミルタザピンを付加された患者群は、最初から6週間ミルタザピンを付加された群と同程度の認知機能の改善であった(豊巻注:ベースラインと比べての改善が同程度)。さらに12週まで続けてミルタザピンを付加された群は6週まで付加された場合よりも、ストループ課題(干渉無しの条件)の遂行時間、Trail Making TestのB版の誤答数において有意な改善が見られた。ミルタザピンを抗精神病薬に持続的に付加することは、神経認知機能の障害を改善させると言える。それは長期に付加した方がより効果が現れる。ミルタザピンは統合失調症の認知機能改善薬として考えるとコストが安く、安全性の高い薬剤と言えるが、さらなる研究が必要である。

という研究。

時間があれば精読したいところだが、とりあえずアブストラクトの紹介までということですいません。
ミルタザピン(商品名リフレックス、レメロン)は四環系抗うつ薬であるが、多様な作用機序がある興味深い薬剤である。Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant:NaSSA(ナッサと発音)と呼ばれるカテゴリに入り、ノルアドレナリン、セロトニン系を促進し、短時間で効果が発現する。
神経認知は、注意、記憶、言語、処理速度、遂行機能などの情報処理的な認知処理を指す概念である。
神経認知機能がミルタザピンの付加によってさらに改善するというのは、1つは陰性症状とパラレルな状態依存的な認知機能の低下が改善した可能性と、精神症状とは独立する純粋な認知機能障害が改善した可能性が考えられる。
それでミルタザピンの改善効果は多様な可能性があるだろう。
ノルアドレナリンのα2受容体のアンタゴニストとして、ノルアドレナリンの放出を促進し、一部の認知機能を改善させる可能性。α2受容体は自己受容体と呼ばれシナプス前細胞にあり、これを抑制するとフィードバックとしてノルアドレナリンの放出が促進される。前頭葉でのノルアドレナリンの放出促進は認知機能や抑うつ、陰性症状の改善に寄与する。
セロトニン作動性ニューロンに投射するノルアドレナリン作動ニューロンにおいて、ノルアドレナリンのα2受容体のアンタゴニスト作用がセロトニン作動性ニューロンを刺激して、次に、それが投射する細胞のうち、5HT-1A受容体を持つ細胞を刺激して、抗うつ作用、抗不安作用、ひいては5HT-1A促進は前頭前野でのドパミン放出を促進するので、これによる陰性症状、認知機能障害の改善に寄与する、という可能性がある。
さらに、5HT2受容体のアンタゴニストとして、ドパミンの放出を促進し、一部の認知機能障害を改善させる可能性。腹側被蓋野から前頭前野に投射するドパミン作動性ニューロンに分布する5HT-2A受容体は抑制的に作用するが、これを薬剤によって阻害することで脱抑制が起こり、前頭前野でのドパミン放出を促進し陰性症状や認知機能障害を改善させる可能性がある。
またまたさらに、ミルタザピンは5HT-3受容体のアンタゴニスト作用がありこれが消化器症状の改善や制吐剤としての効果もあるが、このブログで以前に取り上げたように中枢神経系では抗不安作用や記憶増強作用があるので、このことが抗不安作用、認知機能改善に寄与する可能性もある。
他にも5HT-2阻害作用がGABA作動性ニューロンを抑制して、それが抑制しているノルアドレナリン作動性ニューロンを活性化するという機序もある。
ということで、ミルタザピンの多様な作用機序のおかげで、陰性症状とパラレルな認知機能障害(認知機能低下状態、あるいは発揮困難状態という言うのが正しい)と中核障害としての認知機能障害に、どの作用機序がどの程度関与するかは不明確である。
認知機能改善薬を考えるとき、特に後者の中核的な認知機能障害を改善させる薬剤というのが強く望まれるが、いずれにしてもミルタザピンはそれぞれの作用機序が認知機能障害に対して緩やかな改善効果があって、それらの総和として、認知機能検査で計られる障害が改善するくらいの効果に寄与するのだろう。

今後ミルタザピンが認知機能障害に改善効果があることを強く支持する研究としては、やはり機能画像と組み合わせて認知機能を発揮させる課題関連の前頭葉などでの神経活動が投与前後で上昇することを示すことであろう。神経伝達機能の調節作用が確かに認知機能発揮時の神経活動を調節することを示すことがとても重要である。
また、ミルタザピンが持っている5HT-1A促進作用と、5HT-3阻害作用は、他の薬剤がより純粋に持っており情動と認知機能を改善させるエビデンスが出ているので、それらと比較する試験を行うことで、ミルタザピンの臨床的な有用性がより明らかになるかもしれない。
例えば、5HT-1A促進剤のタンドスピロン(ブスピロン)の付加療法と比較する、5HT-3阻害剤(オンダンセトロンとか複数ある)の付加療法と比較するという試験が出来れば面白いだろう。

toyomaki

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2011年1月24日 (月)

パリペリドン徐放剤の至適用量はPETを用いたD2受容体占有率の計測から6~9mg/dayであると推定される

Dose-finding study of paliperidone ER based on striatal and extrastriatal dopamine D2 receptor occupancy in patients with schizophrenia.
Arakawa R, Ito H, Takano A, Takahashi H, Morimoto T, Sassa T, Ohta K, Kato M, Okubo Y, Suhara T.
Psychopharmacology (Berl). 2008 Apr;197(2):229-35. Epub 2007 Dec 6.

アブストラクト全訳

パリペリドン徐放剤(Paliperidone ER)は成分が徐々に放出されるように工夫された新規抗精神病薬である。全ての抗精神病薬について言えることだが、副作用をあまり起こさないためには慎重な用量設定が必要である。
本研究では統合失調症患者を対象にパリペリドン徐放剤を用いてPET計測による線条体と線条体以外の脳部位におけるD2受容体の占有率について計測し、この薬剤の最適用量を推定する。
13人の男性の統合失調症患者を対象とした。パリペリドン徐放剤を6週間、用量を固定せず投与した。6人は1日3mg、4人が9mg、3人が15mg投与された。パリペリドン徐放剤投与開始後、2週から6週の間でPET計測が行われた。計測は同日に2回行われ、1つは[11C]raclopride(ラクロプライド)を、他方は[11C]FLB 457をトレーサーに用いて撮像された。投与量とパリペリドンの血漿中濃度、PETによるD2受容体の占有率の関係を分析した。
結果は、[11C]racloprideを用いた線条体のD2受容体占有率と11C]FLB 457を用いた側頭葉皮質におけるD2受容体占有率は、それぞれ54.2~85.5%、34.5~87.3%であった。線条体、側頭葉皮質における50%有効量はそれぞれ2.38と2.84mg/dayであった。D2受容体の占有率は線条体と側頭葉皮質で有意差は見られなかった。本研究のデータからパリペリドン徐放剤は6~9mgで、D2受容体を70~80%占有することがわかり(注:一般に抗精神病薬はD2受容体を70~80%占有すると抗精神病作用があるとされる)、それは線条体と側頭葉皮質で同様であることが分かった。

注1:extended-release (ER) formulationは徐放剤のことで、成分が徐々に放出されるよう工夫された薬剤で、血中濃度が急激の上昇しないので効果の持続時間が長く、副作用が少ないことと服用回数が少なくてすむ。
注2:ED50 valuesは50%有効量のことで、薬物濃度を横軸、生体の特定の反応を縦軸に取ったときに薬物の投与量と反応の関係を示した用量-反応曲線 dose-response curveが描かれるが、最大反応の50%の反応を引き起こす薬物濃度が ED50値である。

という研究。
パリペリドン(商品名インヴェガ)は世界で最も用いられている非定型抗精神病薬の1つであるリスペリドン(商品名リスパダール)の活性代謝産物であり、リスペリドン同様の抗精神病作用がある。
本研究は放射線医学総合研究所が得意とするPETによる受容体占有率の測定により、ヒトで非侵襲的な形で新規薬剤の至適用量を推定するdose-finding研究である。
パリペリドンとリスペリドンの薬物プロフィールは実はいろいろ違っていて、臨床精神薬理13巻11号の村崎先生の記事のアブストラクトがオンラインで読めるがそこに簡単に記されている。
セロトニン/ドパミン濃度比がリスペリドン7.1に対してパリペリドン1.5と小さい
ドパミン3受容体に対する阻害作用が高い
アドレナリンα2受容体に対する阻害作用が高い
などが分かっている。
本検討では単純にD2受容体の占有率を計っているので、SDA以外の上記の特異的なプロフィールがどこにどう作用しているか不明であるが、行動課題遂行時の機能画像を用いてリスペリドンと比較すると興味深いだろう。

また本検討では線条体と側頭葉で同じ占有率であったことが興味深い。これまで統合失調症のドパミン仮説は専ら線条体の過剰な神経伝達効率で説明されているが、この研究から間接的ではあるが幻聴に関わる側頭葉のドパミン神経伝達亢進が背景にある可能性があり、なかなか興味深い。妄想・幻覚はかなり高次な認知処理の異常であり、精神薬理学の視点からは線条体を含む大脳基底核に注意が向くけれども、認知神経科学の視点からは前頭葉-側頭葉の機能的結合に注目する方が重要であると思う。
統合失調症のドパミン仮説を支持する薬理学動態の関心領域が線条体から皮質に移行することを示唆する研究がもっと出ることを期待したい。

toyomaki
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2010年8月 3日 (火)

NMDA受容体のアンタゴニストのケタミンは双極性うつで急性の抗うつ効果がある

A Randomized Add-on Trial of an N-methyl-D-aspartate Antagonist in Treatment-Resistant Bipolar Depression

Nancy Diazgranados et al
Arch Gen Psychiatry. 2010;67(8):793-802.

双極性うつの薬物治療に関して、治療を開始してから薬物の効果が発現するまで時間がかかることが知られている。薬物療法としてすぐ効果が発現する(例えば数時間で)ような治療戦略は患者や公衆衛生に多大なインパクトをもたらすだろう。本検討はNMDA受容体のアンタゴニストを用いて、双極性うつに対して素早い抗うつ効果が見られるかどうかを検討した。対象患者を無作為抽出し、二重盲検比較試験によって、通常治療にNMDAアンタゴニストを付加した(add-on)。2006年10月から2009年7月までの期間行った。メリーランド州のNIMHのうつ病研究ユニットで行われた。対象はDSM-Ⅳの診断を満たす双極性障害のうつ病患者18名であった。治療抵抗性であった。
患者はリチウム、もしくはバルプロ酸で治療を受けており、さらにNMDAアンタゴニストのケタミン塩酸塩(0.5 mg/kg)を2週間の間をあけた2日間で静脈注射した。プラセボ群はプラセボを同様に注射した。うつ病の評価は、MADRAS(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale)を用いて、注射後40分、80分、110分、230分、1日後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後に評価した。
結果は、プラセボ群と比較してケタミン注射後40分でうつ症状が有意に改善した。この改善は3日後まで続いた。ケタミン、プラセボのeffect sizeの差が最大になったのは2日後であった。被験者の71%はケタミンによってうつ症状が改善し、6%はプラセボで改善した。ケタミンを投与された1名とプラセボを投与された1名が躁転した。ケタミンの忍容性は高かったが、主な有害事象は解離性症状で投与後40分でしか見られなかった。
結論として治療抵抗性の双極性うつに対してNMDA受容体のアンタゴニストの単回の投与は頑健で高速の抗うつ効果があることが示された。

という研究。
精神医学のトップジャーナルであるArchives of General Psychiatryの論文です。
ケタミンはグルタミン酸受容体の1つであるNMDA受容体の数あるアンタゴニストの1つで、動物やヒトの麻酔として用いられているが、麻薬に指定されている薬剤でもある。
ネスラーの分子神経薬理学では乱用薬物、耽溺性薬物は脳報酬刺激(brain stimulation reward)を促進する、つまり報酬系が活性化しやすくなると記述されている。そして耽溺性薬物としてはアンフェタミン類、コカイン、オピエート類、ニコチン、フェンサイクリジン、ケタミン、カンナビノイド類、ベンゾジアゼピン類、バルビツール酸類、エタノール類などが含まれると書かれてある。このうち、ケタミンやフェンサイクリジンはNMDA受容体のアンタゴニストである。耽溺性薬物は最終的には意欲・動機付けの最も中核的な神経基盤である側坐核を活性化して多幸感や条件刺激と行動の強化を促進するということで、ケタミンも皮質などから直接側坐核に抑制的に投射するグルタミン作動性ニューロンを阻害することで、側坐核をだつ抑制して、意欲・動機付けの神経基盤の最も中核的な神経基盤に作用するわけである。
この報告以前にも大うつ病性障害での臨床知見も報告されており抗うつ効果があることが知られている。

こうした急性的な抗うつ効果や報酬系を向上させるような薬剤と認知行動療法のような認知の矯正・強化を標榜する介入を行うと相乗作用で高い改善効果があるんじゃないかと思うがどうなんだろうか。

toyo

toyo

2010年7月12日 (月)

うつ病を合併する過敏性腸症候群患者で抗うつ薬にセロクエルを付加すると先に消化器症状が改善する(症例報告)

Quetiapine in the treatment of refractory irritable bowel syndrome A case report
Ana Martin-Blanco et al
Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry 34 (2010) 715?716

2010年4月から大型の研究費で雇用されているのですが、その研究プロジェクトは心身相関、脳腸相関に関わる基礎から臨床までのtransrational researchを標榜しています。それで僕もこれらのテーマに関わった特にヒトを対象とした研究を立案、遂行しなければなりません。
それで過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;以下IBS)に興味があって、少しずつ勉強しています。

本症例報告の要約(アブストラクトが無いので自分で要約した)
IBSは下痢や腹痛によって特徴付けられる消化器疾患で5から20%の有病率である。精神疾患と合併率が高く、IBSの30%が不安障害と、26%がうつ病と、50%が身体化障害と合併する。今回、うつ病を合併するIBS患者で、セロクエル(非定型抗精神病薬の1種)を付加したところ、消化器症状が改善した例を報告する。
32歳の女性。重度の大うつ病性障害で精神病や境界型人格障害、メランコリーの特徴はない。反復性のエピソードがある。IBSはローマⅢ基準で診断された。4ヶ月間うつ状態が持続していた(抑うつ、無感情、自殺念慮、不安、不眠、体重減少)。さらにIBSの症状も重篤であった(腹痛と1日十回の下痢)。これらのため、自尊心が低下して社会的孤立感が強い状態であった。薬物治療はベンラファキシン(SNRI)150mg/day、トピラマート(抗てんかん薬)150mg/day、ディアゼパム(抗不安薬)10mg/day、ロペラミド(整腸剤)8mg/day、スコポラミン(抗コリン剤、整腸剤)30mg/dayであった。ベンラファキシンは300mg/dayに増量して3週間観察したところ、抑うつ症状は改善したがIBSは改善した無かった。そこで、抗うつ薬の増強療法としてセルクエル100mg/day(Quetiapine XR, クエチアピン徐放錠)を付加した。2週間後で腹痛や下痢などのIBS症状は完全に治癒した。2ヶ月後に抑うつ症状も寛解した。
(途中省略)
IBSの治療にはいろいろな可能性がある。認知行動療法もあるし、以前にセロクエルを使った抗うつ薬の増強療法の報告もある。本症例はIBSとうつ病が相互に悪影響を及ぼしていたと考えられるが、セロクエルの付加は先にIBSの症状を改善させたので、抗うつ効果→IBS改善、という流れではなく、IBSに直接的な作用を持つ可能性が示唆された。
セロクエルは非定型抗精神病薬で、多様な受容体に親和性がある。例えばH1アンタゴニスト、5HT-1Aアゴニスト作用が腸の収縮を減少させて腹痛を軽減したのかもしれない。ムスカリン性アンタゴニスト作用が腸内分泌を抑制して下痢を減少させているかもしれない。セロクエル単独の、あるいは抗うつ薬との併用による鎮静効果が心理ストレスを減少させたかもしれない。IBSでよく見られる睡眠障害をセロクエルが改善したかもしれない。
さらには、神経新生を促進する因子であるBDNF(神経成長因子)をセロクエルと抗うつ薬の併用が促進したのかもしれない。というのは、IBS患者では過剰な痛覚認知処理のために前部帯状皮質の皮質密度(多分神経細胞部数に相当する)が減少していることが知られているからである。

という研究。
IBSにセロクエルがうつ病改善による2次的な作用、ではなく、うつ病改善に先立つ1次的に作用していることを示唆する報告で大変興味深い。
日本では男性のIBS患者でイリボー(塩酸ラモセトロン, 5HT-3アンタゴニスト、図らずもセロクエルと同様アステラスで販売されています)が使われているが、確かに腸に5HT-3受容体があるが、脳にも分布し、動物実験では抗不安作用があることが知られている(ネスラーの分子神経薬理学183ページ参照)。
そしてIBSと全く関係無いが、統合失調症の聴覚性誘発電位でP50成分を指標としたsensory gatingの一連のテーマがあるが、統合失調症で高頻度で見られるP50抑制障害は定型抗精神病薬、クロザピンを除く非定型抗精神病薬では改善しないことが知られている。そこで、従来の薬物治療を受けている患者に5HT-3アンタゴニストを付加的に投与するとP50抑制障害が改善することが知られており、僕としては5HT-3アンタゴニストは、脳に作用してある種の感覚刺激に対する内受容感覚に対するゲイン(増幅処理)を減少させる作用があるのではと考えていた。
IBSに対するイリボーの改善効果は、腸に作用して末梢由来の感覚情報の減少という部分と、ある程度は脳内移行して(かなり量は少なくなるが、、、)、不快情動関連領域、最終的には内臓感覚の受容野である島皮質の活動を調整しているのではないかと思っている。
今回のセロクエルのIBSに対する改善効果も多分、抗うつ効果の増強や末梢での作用ではなく、中枢レベルで説明できる過程のような気がする。ただ、セロクエルは5HT-3受容体への作用は無いようだし、統合失調症のP50の知見でもセロクエルの切り替え、単剤治療がP50の改善に寄与するということは知られていないので、おそらく別の作用機序で最終的にIBSを改善させると考えるべきだろう。

toyomaki

2010年7月 8日 (木)

フルボキサミンは統合失調症の認知機能障害を改善させる(症例報告)

Fluvoxamine improved cognitive impairments in a patient with schizophrenia
Tomihisa Niitsua, Yukihiko Shirayamab, Mihisa Fujisakia, Kenji Hashimotoc and Masaomi Iyoa

Letter to the Editor (Case report)
Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry
Article in Press

アブストラクトは無いので自分で要約しました
著者らの以前の検討で、統合失調症患者に通常の薬物治療にSSRIであるフルボキサミンとパロキセチンを付加した治療を行ったところ、フルボキサミンを付加した場合だけに認知機能障害の改善が見られた。また著者らの動物実験の研究でも統合失調症のモデル動物を用いて検討したところフルボキサミンは認知機能の改善効果が見られた。今回は、フルボキサミンの付加療法によって認知機能障害が改善した症例を報告する。
対象は24歳女性(元大学生)の統合失調症患者。21歳時発症の比較的単純な妄想型。リスペリドン2mg/dayで奏功し陽性症状は完全消失した。しかし大学の講義を理解することが困難で、注意や記憶の低下を自覚していた。24歳時に著者らの病院を受診し、リスペリドン1mg/dayで経過。陰性症状が強く、意欲動機付けの低下、会話の貧困があり引きこもり生活を送っていた。簡単な家事が出来るものの、就職や教育を受けることに困難さを感じたりと認知機能障害を自覚しており強い不適応感を自覚していた。
WAIS-ⅢはフルIQは95であった。認知機能障害を複数の神経心理学的検査で評価した。流暢性を評価するletter fluency test、category fuluency test、実行機能、運動速度などを評価するTrail Making Test、選択的注意、反応抑制を評価するStroop testを行った。これらの成績はTrail Making TestのBの所要時間引くAの所要時間(実行機能の指標)を除いては全て対照健常者のデータの2標準偏差を下回り有意に低下していた。
患者の同意を得てからフルボキサミン50mg/dayの投与を1ヶ月間実施した。母親の報告では引きこもりや会話の貧困が改善したという。SANS(陰性症状の評価尺度)は69から41と大きく改善した。付加療法開始前と同じ検査バッテリーを実施したところ、ほとんどの検査項目で成績が改善した(それでもcategory fuluency testや、Stroop testの幾つかの項目では健常者群よりは低下したままであった)。今回用いた神経心理検査バッテリーの練習効果を同年代の3人の健常者で評価したところz得点で0.6であったが、本患者の成績改善はz得点で1.0であり、フルボキサミン投与による改善効果であると考えられた。フルボキサミンは陰性症状と関連する認知機能障害を改善させたと考えられた。
本結果の精神薬理学的説明について、フルボキサミンは他のSSRIと異なってシグマ1受容体のアゴニスト作用がある。冒頭で紹介した著者らの先行研究ではパロキセチンは改善効果が見られず、フルボキサミンで改善効果があったので、本症例においてもシグマ1受容体を介して陰性症状と認知機能障害を改善させたと言える。

という研究。
抗うつ薬のSSRIであるフルボキサミンを統合失調症の患者さんに付加療法として投与したところ陰性症状と認知機能障害が改善し、それはシグマ1受容体の促進作用によるだろうという大変わかりやすい事例検討である。
1ヶ月間のフォロ―アップなので神経心理検査についてpractice effectによる見た目の成績改善が考えられるが、それは別の健常者で効果量を量って、患者さんの成績改善のほうが大きいので薬剤の効果であると論じていてまあ適切な手続きである。

それでなんと言ってもシグマ1受容体なんですが、論文や学会でよく聞くし出入りしている製薬会社のMRの方もよく認知機能との関連についてどうなんですかと聞いてくるんですがさっぱり詳しくないもので、ちょっと教科書やネットで調べてもよく分からない。。
まずwikipediaではシグマ受容体をオピオイド受容体に分類しているが、ネスラーの分子神経薬理学の353ページで「現在ではこのシグマ受容体はオピオイド受容体のアンタゴニストであるナロキサンで桔抗されないことから真のオピオイド受容体ではないことが知られている。」と書いてある。その後「その受容体はまったく理解が進んでいない未知のミトコンドリア蛋白質であるらしい。」と書いてある。他方でStahl先生のEssential Psychopharmacology(2nd edition、今は3版が出ていますが、、)でもシグマ受容体の記載がほとんどなく、アゴニストは新規抗うつ薬の標的となるが"sigma  enigma"が現在も残っていると記述されている。行動薬理学研究ではアゴニスト、アンタゴニストでいろいろ文献があるんですが、ちょっと追い切れないのでそれはまたということであるが、時間のあるときに、脳のどの部位に発現するタンパクか、アゴニスト、アンタゴニストが他のモノアミン系の神経伝達機能にどう影響するか、について分かればおおかたの精神症状や認知機能への改善効果のメカニズムが推測できるんだが、、、

いずれにしてもフルボキサミンの付加投与で陰性症状と認知機能障害が改善するので前頭前野な内側部含めた皮質領域の正常化に寄与しているのは間違いないだろう。また1ヵ月の短さを考えるとSRI作用としてというよりも別な作用ということでシグマ受容体の促進作用が大きいんだろう。

toyo

2010年5月24日 (月)

トリプトファン欠乏は健常成人において表情認知時の情動関連領域の神経活動を変化させる

Effects of acute tryptophan depletion on neural processing of facial expressions of emotion in humans
Eileen Daly , Quinton Deeley, Brian Hallahan, Michael Craig, Michael Brammer, Melissa Lamar, Anthony Cleare, Vincent Giampietro, Christine Ecker, Lisa Page, Fiona Toal, Mary L. Phillips, Simon Surguladze and Declan G. M. Murphy
Psychopharmacology 2010年4月28日号

アブストラクト
急性のトリプトファン欠乏は一過性に脳内のセロトニンを減少させる。行動的研究でトリプトファン欠乏が表情認知に影響を与えることが知られているが、その神経基盤についてはよくわかっていない。我々は事象関連fMRIで恐怖、幸福、悲しみ、嫌悪表情に対する神経活動を計測した。14人の健常の男性被験者(平均年齢28歳)が、プラセボ条件下と急性のトリプトファン欠乏下で計測に参加した。我々は急性のトリプトファン欠乏が表情認知に伴う情動処理に関わる神経回路の活動に影響を与えるだろうと考えた。結果は、fMRI計測中の表情認知課題の成績には影響が無かったが、恐怖、嫌悪、幸福の表情に対する神経活動に対しては影響があった(悲しみ顔に対しては効果が無かった)。セロトニン神経伝達は表情認知に伴う情動処理に影響を与えることが示された。しかしその影響は情動の種類や強度によって異なる。

という研究。
トリプトファンはアミノ酸の一種で、脳内でセロトニンに合成されるので、トリプトファンを欠乏させることはセロトニン濃度を下げることになる。トリプトファン欠乏は沢山の研究があるが、この研究はfMRIと組み合わせている。確かに情動に関わる領域に影響を与えることは想像に難くない。アブストラクトしか見ていなくて神経活動にどう影響したかはまた今度精読してから。いずれにしても今回は行動成績に(弁別と強度の評価)影響が無かったということなので、多少の神経伝達機能の偏奇があっても我々は学習や自動化されたプロセスによって社会認知処理をさくっとこなしているのかなと思った。

toyomaki

2010年5月21日 (金)

前頭眼窩野を破壊すると分界条床核が関与する行動制御が低下する

Orbitofrontal Cortex Lesions Alter Anxiety-Related Activity in the Primate Bed Nucleus of Stria Terminalis
Andrew S. Fox, Steven E. Shelton, Terrence R. Oakes, Alexander K. Converse, Richard J. Davidson, and Ned H. Kalin
The Journal of Neuroscience, May 19, 2010, 30(20):7023-7027

児童期における危険到来の予期(potential threat)による行動抑制の経験は後の不安障害や気分障害の発症を予測する要因である。霊長類を対象とした損傷研究からは、前頭眼窩野がこうしたタイプの行動抑制を調整することに寄与することが知られている。損傷研究は脳と行動の因果関係を探索する重要な研究手法であるが、実際は複雑に構成されている神経回路について特定領域を個別に破壊するので、行動との因果関係は慎重に考慮しなければならない。損傷に加えて、機能画像を計測することで、損傷が行動に与える影響を他のどの領域が補償する(aid)かを評価することが出来る。サルを対象として損傷と機能画像の計測を合わせた検討を行った。前頭眼窩野を破壊すると、行動抑制が低下し、扁桃体につながる分界条床核の代謝活動が変化した。また分界条床核の活動の個体差は行動抑制の低下と有意な相関が見られた。恐怖(threat)に対する前頭眼窩野が担う重要な機能として分界条床核を調整している機能があり、行動抑制の発現に直接的に影響を与えると思われる。

という研究。
これはいつか時間があれば精読したい研究。
ここでいう行動抑制は将来に起こりうる不快事象、すなわち危険やリスクを察知し、接近的行動を抑制するという意味である。分界条床核は扁桃体外側中心核と密な神経結合があり、前頭眼窩野や前部帯状皮質、島皮質、扁桃体などの不快情動関連領域の1つに位置づけられる脳部位である。
危険の到来を予測する時に、前頭眼窩野は具体的な不快事象の内容を想像、予測して前部帯状皮質や扁桃体を活性化して軽い閾下程度の不快情動を生成するが、分界条床核は代償的な役割を果たしているようだ。

toyomaki

気分安定状態の双極性障害患者では心の理論(共感化能力)が低下している

Theory of mind impairments in euthymic bipolar patients
Christiane Montag, Andre Ehrlich, Kathrin Neuhaus, Isabel Dziobek, Hauke R. Heekeren, Andreas Heinz, Jurgen Gallinat
Journal of Affective Disorders
Volume 123, Issue 1, Pages 264-269 (June 2010)

アブストラクト
心の理論(共感化能力)などを含む社会認知機能は、精神疾患の病態論と深く関わり、社会適応能力を予測する重要な要因でもある。双極性障害では、機能画像研究や前頭葉機能を反映するような情報処理的な認知機能を評価した研究はたくさんあるが、社会認知機能の心の理論に関する知見はほとんど無い。29人の気分安定状態の双極性障害患者と29名の健常対照者が本実験に参加した。心の理論を評価するために、Movie for the Assessment of Social Cognition(MASC)を用いた。これは社会的場面の動画を提示して他者の心理状態を推測させる課題である。具体的な指標として、「認知」と「感情」に関するスコアを算出することによる定量的な評価と、他者の状態に推論について、過小評価、または過剰評価による誤りを質的に評価した。また社会認知によらない推測能力を統制要因として評価した。
結果は患者群は「認知」スコアは有意に低下していた。また患者群は過小評価による誤りが多かった。躁病エピソードの回数と過小評価による誤答、「感情」スコアと有意な相関がみられた。本研究は気分安定状態の双極性障害患者を対象に動画提示による心の理論能力を評価した最初の研究であった。双極性障害では情報処理的な認知機能の障害とは独立に社会認知能力の障害があることが示された。躁病エピソードの回数と相関することから、社会認知機能は進行的側面が強いことが示された。社会認知は双極性障害で持続的に存在する障害で、機能的予後に影響を与える要因であると思われた。

という研究。
双極性障害の患者さんは、よっぽど重篤な躁状態、うつ状態でなければそんなに対人コミュニケーションに強い違和感や障害、偏奇を感じないが、本研究から、気分安定状態でも動画を用いたもう少し日常場面に近い形で共感性を評価すると不良であること示されたわけである。そして躁病エピソードの回数によって進行的に不良になるというのは非常に興味深い。うつ状態は自尊心の低下などによって他者に対する過剰な配慮が優位になるが、躁状態は他者と自分との関係性によって尊大で不機嫌になったり、過剰に慇懃になったりとどうも他者と完全に感情体験を共有することは難しいように感じる。他者モデルをシミュレートする時の感情的重みづけがうつ状態では一方向的な低下があるが、躁状態では多方向での低下が起きているのだろうと思う。気分安定状態での共感化能力の低下はその前の躁病エピソードで獲得された機能障害なのだろう。

気分安定状態の双極性障害患者では5HT-1A受容体結合能は健常者と変わらなかった

5-HT1A receptor binding in euthymic bipolar patients using positron emission tomography with [carbonyl-11C]WAY-100635
Peter A. Sargentab, Eugenii A. Rabinerc, Zubin Bhagwagard, Luke Clarke, Philip Cowena, Guy M. Goodwina, Paul M. Grasby
Volume 123, Issue 1, Pages 77-80 (June 2010)

アブストラクト
セロトニン(以下5HT)の受容体である5HT-1A受容体の結合能が気分安定状態の双極性障害患者で低下するかどうかPETを用いて検討した。8人の薬物治療中の双極性障害患者と8人の対照健常者が参加した。[carbonyl-11C]WAY-100635という5HT-1A受容体に結合する放射性のリガンドを用いた。脳全体でのシナプス後細胞での受容体結合能(binding potential (BPND))は気分安定状態の双極性障害患者と健常者群で差が無かった。局所的な分析でも群間で差が見られなかった。本検討は結合能が低下しているという先行研究(未治療の短極性障害患者や双極性障害のうつ状態の患者、精神症状が寛解した患者群など)と異なる。これは本検討では薬物によく反応したことと、結合能低下は双極性障害のうつ状態に特異的である可能性を示唆する。

という研究。
5HT-1A受容体は気分との関係でよく注目されている受容体の1つである。5HT-1A受容体の刺激は長期的に見て不安やうつ状態の改善、さらには前頭葉皮質でのドーパミン神経伝達を促進することが知られている。5HT-1A受容体のアゴニストであるタンドスピロン(セディール:大日本住友製薬)は抗不安薬であるが、他の多くの抗不安薬はベンゾジアゼピン受容体を介してGABA受容体を刺激するのでまったく異なる作用機序をもつので、最近では抗うつ薬の増強療法、統合失調症での陰性症状や認知機能障害を改善させる付加療法で用いられたりしている。
また5HT-1A受容体の遺伝子多型を探索する研究も報告されてきている。
本研究は結合能が健常者と変わらず、先行研究と異なる結果だったので1つは状態によって結合能が変化する可能性が高いことを示して興味深いと思った。

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