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2011年5月23日 (月)

疼痛治療薬のプレガバリンは情動予期時の情動関連領域の活動を調整し、抗不安作用効果を示す

Pregabalin Influences Insula and Amygdala Activation During Anticipation of Emotional Images

Robin L Aupperle, et al.

Neuropsychopharmacology (2011) 36, 1466?1477;

抄録全訳
プレガバリン(Pregabalin;以下PGBと訳す。商品名はリリカ)は全般性不安障害や社交性不安障害に対する抗不安作用のある可能性がある薬剤である。PGBは電位依存カルシウムチャネルに作用しGABA作動性の抑制性の活動を上昇させて様々な神経伝達物質の放出を抑制する。健常者を対象にSSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬を用いてfMRIを計測した研究では、情動予期や情動反応の生起時の扁桃体、島皮質、内側前頭前野(以下mPFC)の神経活動が抑制された(豊巻注、これらは不快情動関連領域である)。本研究の目的はPGBの投与が情動予期時においてこれらの領域を抑制するかどうかを検討することである。16人の健常者を対象にし、薬剤の投与はダブルブラインドとし、プラセボ、実薬をランダム化されたクロスオーバーで投与した。プラセボとPGB(50 mgと200 mg)が投与された後1時間後に、不快情動予期、もしくは不快情動予期が生じる課題を実施しfMRIを計測した。解析の結果、PGBは①快・不快情動予期時の左扁桃体と前部島皮質の賦活を減少させ、②他方で前部帯状皮質(以下ACC)の賦活は上昇させた。扁桃体前部はPGB投与量の増大によって、不快情動予期において賦活が増大し、快情動予期においては賦活が減衰した。情動予期や情動生起時の扁桃体や島皮質の活動抑制は薬剤の種別を超えて不安に関与する共通した領域が存在することを示している。PGBで誘発されるACCの活動増強は情動制御に関してトップダウン的な調整を促進するというユニークな作用があることを示すだろう。これらの結果はさらなる抗不安効果のある薬剤を用いた薬物fMRI(pharmaco-fMRI)による検討で妥当性が検証されることが望まれる。

序論(主な知見だけ紹介)
不安障害の頻度はアメリカでは18%である
PGBは100-600mg/dayで半数のGAD、SAD患者が反応する
ベンゾジアゼピン系薬剤の急性投与は表情、痛み刺激、リスク意志決定場面での島、扁桃体、mPFCでの賦活を低下させる
SSRIの健常者での慢性投与は情動予期、表情に対する島、扁桃体、mPFCでの賦活を低下させる
予期不安は不安障害の重要な症状である
情動予期課題は島、扁桃体、PFCを活性化させるし、抗うつ薬と抗不安薬の標的にもなる
扁桃体、島皮質の減衰は到来する刺激の情動反応や将来の身体状態の予測を修正する効果がある
PGBは興奮を鎮静する効果は臨床試験では報告されておらず、むしろ恍惚感が誘発された報告もある
情動予期時の扁桃体の賦活は快・不快で違いがないという健常者の知見がある
扁桃体の機能について不快情動の反応ではなく、刺激の顕著性の処理に関与するとしたほうがよい考えがある
CPT遂行によって痛み刺激の予期に対する扁桃体の賦活が減少する

方法

対象:健常者16名。男性10名、女性6名。平均年齢23.2歳。全員右利き。全被験者は以下の3つの事態でfMRI計測に参加した。それぞれ、実薬(PGB)50 mg低用量投与時、実薬200 mg高用量投与時、プラセボ投与時であった。それぞれの介入は薬剤が完全のwash outさせるために1~3週間空けて行った。それぞれの介入は被験者に対して疑似ランダムで割り付け、さらに二重盲験法で薬剤を投与した(被験者も検査者もどの薬剤を投与したか分からない)。構造化面接を行い、DSM-ⅣのⅠ軸診断に該当する疾患を持つ者を除外した。
課題:CPT(持続的注意課題)と情動予期課題を融合した課題を行った。左向き、右向きの矢印が画面に呈示され、それに応じて反応させる。同時に500 Hzで250 msの持続時間の聴覚刺激が2秒おきに呈示される。
条件:基本的には背景色はグレーであり、もし250 Hzの聴覚刺激と同時に背景色が青色に変化するとポジティブな内容の情動喚起スライドが呈示される。1000 Hzの刺激と同時に黄色に変化したらネガティブな内容の情動喚起スライドが呈示される。青色や黄色の背景の呈示は6秒間持続し、情動予期に相当する。情動喚起スライドは2秒間呈示される。視覚刺激はそれぞれ17枚の画像から成る。International Affective Picture System(IAPS)から採用された。CPT課題について、刺激間間隔は変化するようになっており平均8秒であった。課題全体の所要時間は580秒であった。
薬剤投与:PGBと実薬はMRI計測に先立つ1時間前にダイエットコーラと一緒に経口投与させた。その後、15分、30分、75分、90分、110分後に血漿中濃度を測定した。内服前と計測後に、眠気の尺度(Karolinska Sleepiness Scale)、不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)、また不安、焦燥、緊張、疲労、めまい、気分高揚、神経質、震えについてビジュアルアナログスケールで評価した。
MRI撮像プロトコルと解析:3T(GE社)を使用。レグレッサーは①ポジティブ情動予期、②ネガティブ情動予期、③ポジティブ情動喚起スライドの呈示、④ネガティブ情動喚起スライドの呈示、⑤realignのパラメータ(roll、pitch、yaw)。本研究では特に情動予期の2条件に注目し、%シグナルチェンジを算出し線形混合効果モデルに基づく統計で分析した。ROI(関心領域)は情動処理、情動予期、不安障害の知見に基づいて両側扁桃体、内側前頭前野、島皮質に決定した。内側前頭前野には前部帯状皮質(BA32とBA24)と腹内側前頭前野(BA10)を含めた。それぞれの関心領域のボリュームをマイクロリットルで表現した。モンテカルロシミュレーションを行って、通常の危険率を用いて統計的に有意となるクラスターサイズを求め、それをマイクロリットルで表現している。その結果クラスターレベルで統計学的に有意と見なせるサイズは扁桃体で192マイクロリットル、内側前頭前野では320マイクロリットル、島皮質では256マイクロリットルであった。またボクセルレベルでの補正した有意水準もそれぞれの部位で算出した。情動予期の種類と薬剤介入の主効果と交互作用について分析し、下位検定も行った。
行動データ、質問紙などのデータも薬剤介入条件間で比較した。

結果
○質問紙・身体的症状・行動指標
PGBは高投与量条件でめまい感や疲労感、眠気などが計測後に強くなっていた。CPTの反応時間、正答率もプラセボよりPGB投与時、特に高投与量条件で不良になっていた。
○血漿中濃度の推移
省略
○fMRI
1.PGB投与の有無にかかわらずポジティブ予期条件でネガティブ予期条件よりも活動が増大していた部位
両側扁桃体、両側後部島皮質(快>不快)
2.PGB投与の有無にかかわらずネガティブ予期条件でポジティブ予期条件よりも活動が増大していた部位
右前部・中部島皮質(不快>快)
3.情動予期問わずにPGB内服によって変化があった部位
・PGB投与によって信号量が低下する部位
 左扁桃体、両側島皮質
・PGB投与によって信号量が増大する部位
 前部帯状皮質(mid ACC:豊巻注脳梁膝のすぐ前のrostral ACCに相当する)が増大していた
4.情動予期条件とPGB投与量で交互作用があった部位
左扁桃体前方部、腹側前部帯状皮質(ともに前述の投与量に感度のあった部位とは異なる領域であることに注意)
左扁桃体:快情動予期に関しては信号量はプラセボ>50 mg>200 mgという傾向で、不快情動予期に関してはプラセボ<50 mg<200 mgと対照的であった。
プラセボでは快情動>不快情動、50 mg投与では快情動>不快情動であった。
腹側前部帯状皮質:快情動予期に関しては信号量はプラセボ>50 mg>200 mgという傾向で、不快情動予期に関してはプラセボ<50 mg<200 mgであった。
プラセボでは快情動>不快情動、50 mg投与では快情動>不快情動であった。
5.ビジュアルアナログスケール、行動指標を共変量にした解析
いずれの尺度、行動指標と全脳の各ボクセルでの信号量と相関する部位は無かった。

考察
本研究はプレガバリン(PGB)が情動予期課題の不快情動予期時において扁桃体の活動を抑制したことを初めて示した研究である。
他にもSSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬による同様の知見は示されている。ベンゾジアゼピン系薬剤はGABA系を調節して効果があるだろうし、SSRIはセロトニン系に調節して効果を発現させるだろう。
・PGBは快情動予期や不快情動予期の扁桃体や島皮質の賦活を低下させたが、しかし臨床試験では感情鈍磨の報告はなく、むしろ恍惚感が誘発されたという報告もある。さらなるPGBを用いたfMRI研究によって、個人事の情動体験に対する主観的な反応と扁桃体と島皮質の活動の関係を探索すべきだろう。
・情動予期と投与量とで交互作用があった前方扁桃体について、ここは不快情動予期条件で、投与量が増大するにつれて信号量が増大していた。これは一般的な扁桃体に関する知見とは一致しない。扁桃体はさらなる下位領域に分かれており、それぞれ異なる機能に寄与するだろう。一般的な情動喚起刺激に対する反応や他の下位領域への調整などは外側基底核が関与する。PGBが扁桃体のそれぞれの下位領域への影響の仕方が異なる可能性がある。
・前部帯状皮質はPGB投与によって信号量が増大する部位であったが、これは著者らにとって意外であった。
抗不安作用のある薬剤を用いた先行研究ではこの部位は影響しないか、活動を減衰させる知見がある。内側前頭前野や前部帯状皮質は辺縁系の賦活による自律神経系の調節に第1に関わる部位である。PGBによるこの領域の活動増大は情動予期に対するトップダウン的な自律神経調節を意味するだろう。
・様々な分析の結果200 mgの投与はfMRI信号に対して有意な作用を示す。これは臨床的知見でも200 mgは不安に対して効果があることが知られ、50から150 mgでは少ししか効果が無いという知見と一致する。
・PGBの臨床症状や行動指標への影響について(省略)
・多くの研究では不快情動予期時に扁桃体が賦活する研究が多いが、本研究では快情動予期のほうが増大していた。先行研究には健常者群で情動間で扁桃体の賦活に差が無いという報告もある。扁桃体の機能の中で不快情動の生起に関与すると考えられているが、情動内容ではなく刺激による顕著性(saliency of stimuli)の処理に関与すると考えた方がよいという報告もある。本研究で用いた情動喚起スライドのIAPSは情動価とは別に覚醒度(arousal)という軸もあり情動予期条件間で同じに揃えているので、快情動予期と不快情動予期で同程度に顕著性を生じさせ、扁桃体を活性化させたのかもしれない。(不快情動予期だけで扁桃体が賦活したNitschkeら(2004)の先行研究は非生物の素材で顕著性が低かったので、情動価だけに反応にしたのだろう)。
・先行研究では、CPTを完全に遂行すると痛み刺激の予期に対する扁桃体の賦活が下がることが示されている。
・本研究ではwhole-brain anaysisではあらかじめROIとして考えていた部位以外の場所でも課題に関連した活動が見られた。例えば前頭前野や、側頭葉、後頭葉などである。これは情動関連領域に対する課題特異性が低いということになるが、他の先行研究でもそのような傾向はあった。しかしながら、本課題は情動予期の島皮質と扁桃体の賦活が薬剤で抑制されたので、新規の抗不安効果を検討するには有用である。

という研究。

これは非常に重要な研究だと思った。
プレガバリン(商品名はリリカ)は感覚信号の伝達に関与する細胞にある電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットを阻害しそれが関与する後々の神経伝達を抑制し、慢性疼痛などに鎮痛効果がある薬剤である。この薬剤が本研究のような中枢神経レベルで調節されるような不快情動や快情動の予期が生じる状況で賦活を抑制するのは大変興味深い。結果は必ずしも不快情動予期だけを減衰させるわけではない所が解釈がややこしいが、情動予期が持つ顕著性や覚醒の上昇といったものは情動の方向性・価値(快か不快かということ)によらず共通して生じる過程なのでこれを抑制することで主観的に感じられる興奮が沈むというような感覚に寄与するのだろう。
この薬剤が直接情動関連領域にある神経細胞、もしくはそれらに投射している神経細胞に作用するのか、そうでないかということである。もし、後者のような末梢に作用して抗不安作用があるのであれば非常に面白いと思う。例えばダマジオのソマティックマーカー仮説のような情動予期や、意志決定の前に生じる行動の記憶に随伴する体性感覚や身体反応の痕跡的な記憶は、もしかするとそれなりに末梢から中枢神経に投射する感覚神経をある程度部分的に賦活させるかもしれない。その過程にプレガバリンが作用して反応を減衰させて中枢の情動関連領域での神経伝達を減衰させるのであれば、不安や恐怖という情動は中枢神経だけのものではなく、痛みとかのような実体を持つ感覚も情動の生起に含まれるのではないか。それゆえ、不安や恐怖の減衰には、もちろんそれを生起する不快情動関連領域への直接的な制御が有効だけれども、直ちに閾上に上ってこない痛みや他の内臓感覚といった身体感覚に関わる神経系について一次ニューロンレベルでの抑制が二次以降、最後の中枢の不快情動の生成の抑制にも寄与するかもしれない。多分このような可能性は製薬会社も考えたことはないだろう。
既存の抗不安薬や抗うつ薬とは違う疼痛や身体感覚に関与する薬剤について、向精神薬になりうる可能性がありこうした薬剤の研究は今後も注目していきたい。

toyomaki
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