« シグマ受容体(σ受容体)のうつ病、認知機能障害への効果の作用機序 | トップページ | 論文の読み方3:精読の仕方と情報を整理する »

2010年10月 6日 (水)

制吐剤のオンダンセトロン(セロトニン5HT3受容体阻害剤)の付加療法は統合失調症の陰性症状と認知機能障害(記憶)を改善させる

Added ondansetron for stable schizophrenia: A double blind, placebo controlled trial
Shahin Akhondzadeh et al.
Schizophrenia Research 107 (2009) 206.212

アブストラクト完訳
5HT3受容体は統合失調症の精神症状や認知機能障害に関与することはよく知られてきた。本研究の目的は5HT3受容体アンタゴニストのオンダンセトロンが慢性の統合失調症の治療、特に認知機能障害の治療の補助剤になるかどうかを検証することである。精神症状が安定している慢性の統合失調症患者に2重盲険法でオンダンセトロンを12週間投与した。30人の通院、入院患者を対象とした。全ての患者はDSM-Ⅳ-TRで統合失調症と診断された。条件を適切に設定するために、主剤としてリスペリドンを用いていて最低8週間、容量を固定して治療を受けている患者を対象とした。患者は15人ずつ無作為に割り付けられ、オンダンセトロン(8 mg/day)か、プラセボが、それぞれリスペリドンに加えて付加された。精神症状はPANSSを用いて評価した。認知機能は認知機能検査を用いて評価した。評価は、付加療法開始前、開始後8週、12週で行われた。PANSSと認知機能検査が付加療法のアウトカム指標として用いた。オンダンセトロン使用群では、試験中において陰性症状尺度得点と総合精神病理尺度得点、PANSS総合得点が改善した。またオンダンセトロン使用群ではWMS-Rの下位検査である視覚性再生、視覚性対連合、図形の記憶で改善が見られた。本研究から、オンダンセトロンは慢性の統合失調症の特に陰性症状や認知機能障害に対する補助的な治療薬になることを示した。

序論
定型抗精神病薬は50年以上前から用いられてきたが、有効性と忍容性には限界がある。定型抗精神病薬を用いても精神症状が持続したり、機能レベルが低下したり、不快で生活に支障をきたす副作用が起きたりする。統合失調症では認知機能障害が現れ、その重傷度は精神症状以上に機能的予後に影響することが知られている。
認知機能障害は統合失調症の患者の75~85%で顕在化しており、多くが発症前から現れている。主に障害されている認知領域は言語流暢性、作業記憶、実行機能、持続的注意、視空間認知課題、処理速度である。定型抗精神病薬や非定型抗精神病薬で適切に治療を受けても認知機能障害は持続して存在する。抗精神病薬に顕著な認知機能改善効果が無いことから、認知機能障害を標的とした多剤併用療法の開発が促進された。
5HT3受容体は多様な機能から統合失調症の認知機能障害を改善させる可能性があると考えられていた。動物での行動薬理学的研究では、5HT3アンタゴニストは抗不安作用、記憶増強作用があることが知られている。例えば、ラットで辺縁系にDA、アンフェタミン、2メチルセロトニンを注入すると運動量が増大するが、オンダンセトロンの注入はそれを改善する。5HT3アンタゴニストは統合失調症の認知機能障害を改善させる新規薬剤になるうると考えられていた。オンダンセトロンを用いた小規模の研究、症例報告では精神症状、運動系の副作用をに効果がある。オンダンセトロンの短期間の投与ではレイ複雑図形による視空間記憶課題の成績が改善する。オンダンセトロンは慢性患者、治療抵抗性患者のハロペリドール治療を増強し陰性症状、認知機能障害を改善させた。

方法
・対象
30人の統合失調症患者が参加した。28人が外来患者であった。女性11名、男性19名であった。22歳から44歳までであった。DSM-Ⅳ-TRで診断した。少なくとも4週以上は精神症状が変化しない(PANSSで20%未満の変化)患者を対象にした。患者をオンダンセトロン(8 mg/day)群とプラセボ群に無作為に割り付けた。

・認知機能検査
神経認知(情報処理的な認知機能)は6領域について評価した。実行機能はWisconsin Card Sorting Test、視覚性記憶はWMS-Rから3つの下位課題、言語性記憶はWMS-Rの論理記憶と言語対連合を用いた。作業記憶と注意を評価するためにWMS-Rから数唱課題を用いた。WAIS-Rの積み木課題は構成能力を見るために行った。
・アウトカム指標(12週後に評価したもの)
精神症状についてPANSS、認知機能検査、錐体外路症状についてExtrapyramidal Symptoms Rating Scale (ESRS)
・統計分析
PANSSについて、評価時点と群間についての2要因反復測定分散分析を行った。認知機能検査についてはt検定を行った。ベースライン・オンダンセトロン付加群、ベースライン・プラセボ群、エンドポイント・オンダンセトロン群、エンドポイント・プラセボ群との間での比較を行った。人口統計学的指標と副作用の頻度については、フィッシャーの正確確率検定を行った。全ての検定は両側検定であり、有意水準は5%とした。

結果
・陽性症状:ベースライン時、12週後のそれぞれの時点ではオンダンセトロン群とプラセボ群で差は無かった。それぞれの群で計測時点間での有意な変化は無かった。
・陰性症状:ベースライン時では2群では有意差は無かった。オンダンセトロン群はベースライン時よりもエンドポイント時では有意差があり、症状が改善した。エンドポイント時ではオンダンセトロン群はプラセボ群よりも有意に症状が改善していた。
・総合精神病理尺度:ベースライン時では2群では有意差は無かった。オンダンセトロン群はベースライン時よりもエンドポイント時では有意差があり、症状が改善した。エンドポイント時ではオンダンセトロン群はプラセボ群よりも有意に症状が改善していた。
・PANSS総合得点:ベースライン時では2群では有意差は無かった。オンダンセトロン群はベースライン時よりもエンドポイント時では有意差があり、症状が改善した。エンドポイント時ではオンダンセトロン群はプラセボ群よりも有意に症状が改善していた。
・認知機能検査:ベースライン時では2群では有意差は無かった。エンドポイント時では、オンダンセトロン群はプラセボ群よりも、視覚性再生、視覚性対連合、図形の記憶で成績が改善していた。
・その他:HAM-Dによるうつ病の重傷度は群間差、評価ポイント間の差は無かった。ESRSによる錐体外路症状はプラセボ群においてエンドポイント時で悪化していた。

考察
幾つかの先行研究で5HT3アンタゴニストが統合失調症の精神症状・認知機能床以外を改善させることが示されていたが、ダブルブラインドによるオンダンセトロンの付加療法を行った本研究でも、陰性症状や認知機能障害(特に記憶)が改善することが示された。
また、オンダンセトロン内服群では錐体外路症状が軽減しており、忍容性が高いことが示された。
ヒトにおいて5HT3受容体は前頭前野、側坐核、海馬体、扁桃体に多いので、5HT3受容体は意欲・動機付け、情動を調節する機能がある。
リスペリドンは他の抗精神病薬よりも5HT3受容体結合能が高い。リスペリドンは5HT3受容体に関して、シナプスのポスト側の受容体に作用し、オンダンセトロンはプレ側の受容体に作用する点で影響が異なる。この違いはリスペリドンのほうがオンダンセトロンよりも受容体への親和性が低いことが寄与する。オンダンセトロンは5HT3受容体阻害作用を増強するといえる。

という研究。
これは非常に重要な論文であると思う。
統合失調症の陰性症状、認知機能障害を付加療法(add on)として改善させようという試みはいろいろあるが、5HT3受容体は非常に有力な標的であると思われる。

もともとオンダンセトロン(商品名ゾフラン)は化学療法を受けているがん患者の制吐剤として使われる薬剤である。
その他に5HT3アンタゴニストの塩酸ラモセトロン(商品名イリボー)はアステラス製薬が出しているIBS(過敏性腸症候群)の男性患者に適応のある薬剤である。
末梢においては腸に5HT3受容体が多く、その阻害作用は蠕動運動を抑制するので制吐剤として用いられるのであるが、複数の統合失調症を対象とした臨床研究で認知機能障害や、統合失調症で割と特異的な所見が出てくる聴覚誘発電位のP50成分の異常が改善することが知られており、これはとても末梢の腸に対する作用では説明できない。
これらの薬剤は脳内移行が低いので、人においては脳に局所注入できる動物の行動薬理研究の知見は適用できないと思われているが、腸の機能性疾患ではない統合失調症において陰性症状、認知機能障害、知覚過敏の問題が改善するというのはやはり内服によってであっても、脳内に移行し特に5HT3受容体が多くある辺縁系において作用していると言える。

そもそも制吐剤としての作用は脳腸相関の末梢側の方を調整するということになっているが、もしかすると脳側に作用している可能性もある。
脳腸相関の一般的説明では、ストレッサーによるストレス体験が交感神経系を通して腸でのアウエルバッハ叢でのセロトニン分泌を促進して、腸の蠕動運動を促進して腸由来の不快な内臓感覚が経験されるというものである。
しかし腸の感覚経験は中枢神経系の島皮質がコード化している。島皮質は意識的な注意に関わる前部帯状皮質や不快情動生成に関わる扁桃体との神経結合が強い。もしかすると、IBS患者や身体表現性障害のある気分障害、不安障害患者では、慢性的・持続的な島皮質、扁桃体、前部帯状皮質などを中心とする機能的結合の増強のようなものがあって、内臓感覚の閾値の低下(内受容感覚全般による身体感覚一般とでもいうものだろう)があって、末梢から通常の信号が上行してきても過敏に処理されるのかもしれない。
他方で、特性不安といった比較的長期間維持される不安状態は海馬が関与するので、こうした不快情動関連処理、内受容感覚過敏処理に関わる機能的結合に、時間的に長期的に保持するシステムとして海馬の関与があってこうした状態像を形成するかもしれない。
こう考えると、5HT3受容体は辺縁系に多いわけであるが、5HT3受容体アンタゴニストが脳内に移行し上記の機能結合に調節的に作用することで感覚過敏と不安を減弱するという意味での抗不安作用として説明できるかもしれない。例えば、海馬におけるアセチルコリン作動性ニューロンに分布する5HT3受容体の刺激は抑制性に作用するが、5HT3アンタゴニストによってアセチルコリン作動ニューロンを脱抑制して海馬機能の向上に寄与する。

個人的には、統合失調症の外受容性刺激に対する感覚過敏とIBSなどの内受容性の感覚過敏のメカニズムの異同と薬理学的介入の可能性について考えていきたい。
toyomaki
toyomaki
toyomaki

« シグマ受容体(σ受容体)のうつ病、認知機能障害への効果の作用機序 | トップページ | 論文の読み方3:精読の仕方と情報を整理する »

【論文:精読】」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« シグマ受容体(σ受容体)のうつ病、認知機能障害への効果の作用機序 | トップページ | 論文の読み方3:精読の仕方と情報を整理する »

フォト
2020年5月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

リンク

  • Picasa
    主にデジカメで撮った写真をアップしています
  • Flicker
    Flickerです 主にiphoneで撮った写真をアップしています
  • Twitter
    Twwiterへのリンクです

ウェブページ

無料ブログはココログ