« Iphoneのアプリi文庫でEndnoteで収集した文献書誌情報のアブストラクトを読む | トップページ | NMDA受容体のアンタゴニストのケタミンは双極性うつで急性の抗うつ効果がある »

2010年7月12日 (月)

うつ病を合併する過敏性腸症候群患者で抗うつ薬にセロクエルを付加すると先に消化器症状が改善する(症例報告)

Quetiapine in the treatment of refractory irritable bowel syndrome A case report
Ana Martin-Blanco et al
Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry 34 (2010) 715?716

2010年4月から大型の研究費で雇用されているのですが、その研究プロジェクトは心身相関、脳腸相関に関わる基礎から臨床までのtransrational researchを標榜しています。それで僕もこれらのテーマに関わった特にヒトを対象とした研究を立案、遂行しなければなりません。
それで過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;以下IBS)に興味があって、少しずつ勉強しています。

本症例報告の要約(アブストラクトが無いので自分で要約した)
IBSは下痢や腹痛によって特徴付けられる消化器疾患で5から20%の有病率である。精神疾患と合併率が高く、IBSの30%が不安障害と、26%がうつ病と、50%が身体化障害と合併する。今回、うつ病を合併するIBS患者で、セロクエル(非定型抗精神病薬の1種)を付加したところ、消化器症状が改善した例を報告する。
32歳の女性。重度の大うつ病性障害で精神病や境界型人格障害、メランコリーの特徴はない。反復性のエピソードがある。IBSはローマⅢ基準で診断された。4ヶ月間うつ状態が持続していた(抑うつ、無感情、自殺念慮、不安、不眠、体重減少)。さらにIBSの症状も重篤であった(腹痛と1日十回の下痢)。これらのため、自尊心が低下して社会的孤立感が強い状態であった。薬物治療はベンラファキシン(SNRI)150mg/day、トピラマート(抗てんかん薬)150mg/day、ディアゼパム(抗不安薬)10mg/day、ロペラミド(整腸剤)8mg/day、スコポラミン(抗コリン剤、整腸剤)30mg/dayであった。ベンラファキシンは300mg/dayに増量して3週間観察したところ、抑うつ症状は改善したがIBSは改善した無かった。そこで、抗うつ薬の増強療法としてセルクエル100mg/day(Quetiapine XR, クエチアピン徐放錠)を付加した。2週間後で腹痛や下痢などのIBS症状は完全に治癒した。2ヶ月後に抑うつ症状も寛解した。
(途中省略)
IBSの治療にはいろいろな可能性がある。認知行動療法もあるし、以前にセロクエルを使った抗うつ薬の増強療法の報告もある。本症例はIBSとうつ病が相互に悪影響を及ぼしていたと考えられるが、セロクエルの付加は先にIBSの症状を改善させたので、抗うつ効果→IBS改善、という流れではなく、IBSに直接的な作用を持つ可能性が示唆された。
セロクエルは非定型抗精神病薬で、多様な受容体に親和性がある。例えばH1アンタゴニスト、5HT-1Aアゴニスト作用が腸の収縮を減少させて腹痛を軽減したのかもしれない。ムスカリン性アンタゴニスト作用が腸内分泌を抑制して下痢を減少させているかもしれない。セロクエル単独の、あるいは抗うつ薬との併用による鎮静効果が心理ストレスを減少させたかもしれない。IBSでよく見られる睡眠障害をセロクエルが改善したかもしれない。
さらには、神経新生を促進する因子であるBDNF(神経成長因子)をセロクエルと抗うつ薬の併用が促進したのかもしれない。というのは、IBS患者では過剰な痛覚認知処理のために前部帯状皮質の皮質密度(多分神経細胞部数に相当する)が減少していることが知られているからである。

という研究。
IBSにセロクエルがうつ病改善による2次的な作用、ではなく、うつ病改善に先立つ1次的に作用していることを示唆する報告で大変興味深い。
日本では男性のIBS患者でイリボー(塩酸ラモセトロン, 5HT-3アンタゴニスト、図らずもセロクエルと同様アステラスで販売されています)が使われているが、確かに腸に5HT-3受容体があるが、脳にも分布し、動物実験では抗不安作用があることが知られている(ネスラーの分子神経薬理学183ページ参照)。
そしてIBSと全く関係無いが、統合失調症の聴覚性誘発電位でP50成分を指標としたsensory gatingの一連のテーマがあるが、統合失調症で高頻度で見られるP50抑制障害は定型抗精神病薬、クロザピンを除く非定型抗精神病薬では改善しないことが知られている。そこで、従来の薬物治療を受けている患者に5HT-3アンタゴニストを付加的に投与するとP50抑制障害が改善することが知られており、僕としては5HT-3アンタゴニストは、脳に作用してある種の感覚刺激に対する内受容感覚に対するゲイン(増幅処理)を減少させる作用があるのではと考えていた。
IBSに対するイリボーの改善効果は、腸に作用して末梢由来の感覚情報の減少という部分と、ある程度は脳内移行して(かなり量は少なくなるが、、、)、不快情動関連領域、最終的には内臓感覚の受容野である島皮質の活動を調整しているのではないかと思っている。
今回のセロクエルのIBSに対する改善効果も多分、抗うつ効果の増強や末梢での作用ではなく、中枢レベルで説明できる過程のような気がする。ただ、セロクエルは5HT-3受容体への作用は無いようだし、統合失調症のP50の知見でもセロクエルの切り替え、単剤治療がP50の改善に寄与するということは知られていないので、おそらく別の作用機序で最終的にIBSを改善させると考えるべきだろう。

toyomaki

« Iphoneのアプリi文庫でEndnoteで収集した文献書誌情報のアブストラクトを読む | トップページ | NMDA受容体のアンタゴニストのケタミンは双極性うつで急性の抗うつ効果がある »

【論文:アブストラクト】」カテゴリの記事

コメント

参考になりました。
ありがとうございました。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« Iphoneのアプリi文庫でEndnoteで収集した文献書誌情報のアブストラクトを読む | トップページ | NMDA受容体のアンタゴニストのケタミンは双極性うつで急性の抗うつ効果がある »

フォト
2020年5月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

リンク

  • Picasa
    主にデジカメで撮った写真をアップしています
  • Flicker
    Flickerです 主にiphoneで撮った写真をアップしています
  • Twitter
    Twwiterへのリンクです

ウェブページ

無料ブログはココログ