2019年3月 4日 (月)

選択的D3受容体阻害薬は統合失調症の急性増悪に有効である。二相試験の結果

Randomized, double-blind, placebo-controlled study of F17464, a preferential D3-antagonist, in the treatment of acute exacerbation of schizophrenia

Istvan Bitter et al.
Neuropsychopharmacology (2019)

抄録全訳
F17464は選択的D3受容体阻害剤であり、新規向精神病薬の新規の候補薬である。本報告は二相試験で、二重盲検、無作為化、プラセボ対照並行試験である。ヨーロッパで5カ国で行った。F17464を20mg/dayを、1日2回、6週間投与した。患者は急性増悪した患者を対象とした。43日後のPositive and Negative Syndrome Scale (PANSS) の変化量を評価した。全体で134人が参加し、実薬群、プラセボ群とそれぞれ67名が割り当てられた。統計解析はLOCF(Last Observation Carried Forward)による共分散分析であった。結果は、主要評価項目のPANSS合計点は、実薬群でプラセボ群よりも有意に改善した(p=0.014)。多重挿入法による共分散分析では実薬群で優位な改善傾向があるものの群間差はなかった。PANSS陽性症状得点、精神病理得点、MarderによるPANSS5因子モデルの陽性症状得点、PANSSの改善割合、PANSSのいくつかの項目での3点以下の項目数はLOCF法で、実薬群で有意に改善していた。有害事象は実薬群で49.3%、プラセボ群で46.3%見られた。実薬群で見られた有害事象は不眠、アジテーション、トリグリセリドの増加、精神症状の悪化であった。興味深いことに、体重増加、アカシジア以外の錐体外路症状は見られなかった。結論として、1日40mgのF17464の6週間の投与は統合失調症の急性増悪を安全に改善させることが示された。

コメント
アミスルピリド、カリプラジン、ブロナンセリンなど、D3阻害作用が、陰性症状の改善に寄与していると考えられているが、本報告では選択的D3受容体阻害薬が陽性症状を改善させたということで興味深い。

2013年5月21日 (火)

オキシトシン点鼻薬は統合失調症の社会認知障害を改善させる

Effects of single dose intranasal oxytocin on social cognition in schizophrenia

Michael C. Davis, Junghee Lee, William P. Horan, Angelika D. Clarke, Mark R. McGee, Michael F. Green, Stephen R. Marder
Schizophrenia Research

○序論
統合失調症では社会認知の障害が見られ、社会生活機能に寄与する。
オキシトシンについて、血漿中のオキシトシン濃度と精神症状が相関する、表情認知と相関するという報告がある。
オキシトシン点鼻薬の付加療法による治療は精神症状を改善させるという報告が3本ある。
オキシトシン点鼻薬の付加療法の表情認知に対する効果は、低容量では悪化、高容量で改善させるという報告がある(2本)。
オキシトシン点鼻薬の付加療法は14日間の投与で心の理論は良くなるが他の社会認知領域は変わらないという報告がある。
目的:オキシトシン点鼻薬の付加療法の社会認知障害への改善効果を複数の課題を用いて、低次処理と高次処理に分けて評価する。
オキシトシン点鼻薬の付加療法による効果を1週間の投与期間で、二重盲検デザインで検討した。
○方法
対象:統合失調症。男性患者23名。平均年齢48,6歳。PANSS合計で71から75くらい。精神症状が安定いる。過去6ヶ月は入院歴が無い。
薬剤:オキシトシン点鼻薬は50 IU/ml( Inland Compounding Pharmacy (Loma Linda, CA).)を用いた。
社会認知課題:①心の理論課題、②共感性、③社会知覚(Half-PONS課題)、④表情認知とした。うち、心の理論課題の嘘検出条件、社会知覚(Half-PONS課題)、表情認知課題の3つのコンポジットスコアを低次社会認知スコアとし、心の理論課題の皮肉検出条件、共感性課題のコンポジットスコアを高次社会認知スコアとした。
臨床評価:精神症状はPANSS、CGI-S、CGI-I、全般的機能はGAF
○結果
介入前について、プラセボ群とオキシトシン群では4つの社会認知課題のコンポジットスコア、および個々の検査いずれでも差が無かった。
介入後について、プラセボ群とオキシトシン群では4つの社会認知課題のコンポジットスコアに差が無かった(有意傾向はあった)。しかし、高次社会認知スコアでは、オキシトシン群が有意に上昇していた(p=0.045,効果量d=1.00)。
精神症状、全般的機能はプラセボとオキシトシン群の間で差が無かった。
○考察
・先行研究に一致するものとそうでないものがあった。本検討の患者群の年齢、オキシトシンの容量で説明できるだろう。
本検討の介入後の社会認知の検査(全1時間)は、オキシトシン点鼻の30分後に行ったが、現在のところ、人で脳脊髄液におけるオキシトシン濃度について計測した研究はないので、このような方法の妥当性は分からない。しかしバゾプレッシン点鼻は80分後に有意に上昇する、オキシトシン点鼻によって唾液濃度は7時間以上増大するという知見を踏まえると本研究の投与法は妥当であるといえるだろう。
・1週間投与した本研究では精神症状への影響が無かったが、先行研究は2週から8週間オキシトシンで治療していたからであろう。

2011年5月23日 (月)

疼痛治療薬のプレガバリンは情動予期時の情動関連領域の活動を調整し、抗不安作用効果を示す

Pregabalin Influences Insula and Amygdala Activation During Anticipation of Emotional Images

Robin L Aupperle, et al.

Neuropsychopharmacology (2011) 36, 1466?1477;

抄録全訳
プレガバリン(Pregabalin;以下PGBと訳す。商品名はリリカ)は全般性不安障害や社交性不安障害に対する抗不安作用のある可能性がある薬剤である。PGBは電位依存カルシウムチャネルに作用しGABA作動性の抑制性の活動を上昇させて様々な神経伝達物質の放出を抑制する。健常者を対象にSSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬を用いてfMRIを計測した研究では、情動予期や情動反応の生起時の扁桃体、島皮質、内側前頭前野(以下mPFC)の神経活動が抑制された(豊巻注、これらは不快情動関連領域である)。本研究の目的はPGBの投与が情動予期時においてこれらの領域を抑制するかどうかを検討することである。16人の健常者を対象にし、薬剤の投与はダブルブラインドとし、プラセボ、実薬をランダム化されたクロスオーバーで投与した。プラセボとPGB(50 mgと200 mg)が投与された後1時間後に、不快情動予期、もしくは不快情動予期が生じる課題を実施しfMRIを計測した。解析の結果、PGBは①快・不快情動予期時の左扁桃体と前部島皮質の賦活を減少させ、②他方で前部帯状皮質(以下ACC)の賦活は上昇させた。扁桃体前部はPGB投与量の増大によって、不快情動予期において賦活が増大し、快情動予期においては賦活が減衰した。情動予期や情動生起時の扁桃体や島皮質の活動抑制は薬剤の種別を超えて不安に関与する共通した領域が存在することを示している。PGBで誘発されるACCの活動増強は情動制御に関してトップダウン的な調整を促進するというユニークな作用があることを示すだろう。これらの結果はさらなる抗不安効果のある薬剤を用いた薬物fMRI(pharmaco-fMRI)による検討で妥当性が検証されることが望まれる。

序論(主な知見だけ紹介)
不安障害の頻度はアメリカでは18%である
PGBは100-600mg/dayで半数のGAD、SAD患者が反応する
ベンゾジアゼピン系薬剤の急性投与は表情、痛み刺激、リスク意志決定場面での島、扁桃体、mPFCでの賦活を低下させる
SSRIの健常者での慢性投与は情動予期、表情に対する島、扁桃体、mPFCでの賦活を低下させる
予期不安は不安障害の重要な症状である
情動予期課題は島、扁桃体、PFCを活性化させるし、抗うつ薬と抗不安薬の標的にもなる
扁桃体、島皮質の減衰は到来する刺激の情動反応や将来の身体状態の予測を修正する効果がある
PGBは興奮を鎮静する効果は臨床試験では報告されておらず、むしろ恍惚感が誘発された報告もある
情動予期時の扁桃体の賦活は快・不快で違いがないという健常者の知見がある
扁桃体の機能について不快情動の反応ではなく、刺激の顕著性の処理に関与するとしたほうがよい考えがある
CPT遂行によって痛み刺激の予期に対する扁桃体の賦活が減少する

方法

対象:健常者16名。男性10名、女性6名。平均年齢23.2歳。全員右利き。全被験者は以下の3つの事態でfMRI計測に参加した。それぞれ、実薬(PGB)50 mg低用量投与時、実薬200 mg高用量投与時、プラセボ投与時であった。それぞれの介入は薬剤が完全のwash outさせるために1~3週間空けて行った。それぞれの介入は被験者に対して疑似ランダムで割り付け、さらに二重盲験法で薬剤を投与した(被験者も検査者もどの薬剤を投与したか分からない)。構造化面接を行い、DSM-ⅣのⅠ軸診断に該当する疾患を持つ者を除外した。
課題:CPT(持続的注意課題)と情動予期課題を融合した課題を行った。左向き、右向きの矢印が画面に呈示され、それに応じて反応させる。同時に500 Hzで250 msの持続時間の聴覚刺激が2秒おきに呈示される。
条件:基本的には背景色はグレーであり、もし250 Hzの聴覚刺激と同時に背景色が青色に変化するとポジティブな内容の情動喚起スライドが呈示される。1000 Hzの刺激と同時に黄色に変化したらネガティブな内容の情動喚起スライドが呈示される。青色や黄色の背景の呈示は6秒間持続し、情動予期に相当する。情動喚起スライドは2秒間呈示される。視覚刺激はそれぞれ17枚の画像から成る。International Affective Picture System(IAPS)から採用された。CPT課題について、刺激間間隔は変化するようになっており平均8秒であった。課題全体の所要時間は580秒であった。
薬剤投与:PGBと実薬はMRI計測に先立つ1時間前にダイエットコーラと一緒に経口投与させた。その後、15分、30分、75分、90分、110分後に血漿中濃度を測定した。内服前と計測後に、眠気の尺度(Karolinska Sleepiness Scale)、不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)、また不安、焦燥、緊張、疲労、めまい、気分高揚、神経質、震えについてビジュアルアナログスケールで評価した。
MRI撮像プロトコルと解析:3T(GE社)を使用。レグレッサーは①ポジティブ情動予期、②ネガティブ情動予期、③ポジティブ情動喚起スライドの呈示、④ネガティブ情動喚起スライドの呈示、⑤realignのパラメータ(roll、pitch、yaw)。本研究では特に情動予期の2条件に注目し、%シグナルチェンジを算出し線形混合効果モデルに基づく統計で分析した。ROI(関心領域)は情動処理、情動予期、不安障害の知見に基づいて両側扁桃体、内側前頭前野、島皮質に決定した。内側前頭前野には前部帯状皮質(BA32とBA24)と腹内側前頭前野(BA10)を含めた。それぞれの関心領域のボリュームをマイクロリットルで表現した。モンテカルロシミュレーションを行って、通常の危険率を用いて統計的に有意となるクラスターサイズを求め、それをマイクロリットルで表現している。その結果クラスターレベルで統計学的に有意と見なせるサイズは扁桃体で192マイクロリットル、内側前頭前野では320マイクロリットル、島皮質では256マイクロリットルであった。またボクセルレベルでの補正した有意水準もそれぞれの部位で算出した。情動予期の種類と薬剤介入の主効果と交互作用について分析し、下位検定も行った。
行動データ、質問紙などのデータも薬剤介入条件間で比較した。

結果
○質問紙・身体的症状・行動指標
PGBは高投与量条件でめまい感や疲労感、眠気などが計測後に強くなっていた。CPTの反応時間、正答率もプラセボよりPGB投与時、特に高投与量条件で不良になっていた。
○血漿中濃度の推移
省略
○fMRI
1.PGB投与の有無にかかわらずポジティブ予期条件でネガティブ予期条件よりも活動が増大していた部位
両側扁桃体、両側後部島皮質(快>不快)
2.PGB投与の有無にかかわらずネガティブ予期条件でポジティブ予期条件よりも活動が増大していた部位
右前部・中部島皮質(不快>快)
3.情動予期問わずにPGB内服によって変化があった部位
・PGB投与によって信号量が低下する部位
 左扁桃体、両側島皮質
・PGB投与によって信号量が増大する部位
 前部帯状皮質(mid ACC:豊巻注脳梁膝のすぐ前のrostral ACCに相当する)が増大していた
4.情動予期条件とPGB投与量で交互作用があった部位
左扁桃体前方部、腹側前部帯状皮質(ともに前述の投与量に感度のあった部位とは異なる領域であることに注意)
左扁桃体:快情動予期に関しては信号量はプラセボ>50 mg>200 mgという傾向で、不快情動予期に関してはプラセボ<50 mg<200 mgと対照的であった。
プラセボでは快情動>不快情動、50 mg投与では快情動>不快情動であった。
腹側前部帯状皮質:快情動予期に関しては信号量はプラセボ>50 mg>200 mgという傾向で、不快情動予期に関してはプラセボ<50 mg<200 mgであった。
プラセボでは快情動>不快情動、50 mg投与では快情動>不快情動であった。
5.ビジュアルアナログスケール、行動指標を共変量にした解析
いずれの尺度、行動指標と全脳の各ボクセルでの信号量と相関する部位は無かった。

考察
本研究はプレガバリン(PGB)が情動予期課題の不快情動予期時において扁桃体の活動を抑制したことを初めて示した研究である。
他にもSSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬による同様の知見は示されている。ベンゾジアゼピン系薬剤はGABA系を調節して効果があるだろうし、SSRIはセロトニン系に調節して効果を発現させるだろう。
・PGBは快情動予期や不快情動予期の扁桃体や島皮質の賦活を低下させたが、しかし臨床試験では感情鈍磨の報告はなく、むしろ恍惚感が誘発されたという報告もある。さらなるPGBを用いたfMRI研究によって、個人事の情動体験に対する主観的な反応と扁桃体と島皮質の活動の関係を探索すべきだろう。
・情動予期と投与量とで交互作用があった前方扁桃体について、ここは不快情動予期条件で、投与量が増大するにつれて信号量が増大していた。これは一般的な扁桃体に関する知見とは一致しない。扁桃体はさらなる下位領域に分かれており、それぞれ異なる機能に寄与するだろう。一般的な情動喚起刺激に対する反応や他の下位領域への調整などは外側基底核が関与する。PGBが扁桃体のそれぞれの下位領域への影響の仕方が異なる可能性がある。
・前部帯状皮質はPGB投与によって信号量が増大する部位であったが、これは著者らにとって意外であった。
抗不安作用のある薬剤を用いた先行研究ではこの部位は影響しないか、活動を減衰させる知見がある。内側前頭前野や前部帯状皮質は辺縁系の賦活による自律神経系の調節に第1に関わる部位である。PGBによるこの領域の活動増大は情動予期に対するトップダウン的な自律神経調節を意味するだろう。
・様々な分析の結果200 mgの投与はfMRI信号に対して有意な作用を示す。これは臨床的知見でも200 mgは不安に対して効果があることが知られ、50から150 mgでは少ししか効果が無いという知見と一致する。
・PGBの臨床症状や行動指標への影響について(省略)
・多くの研究では不快情動予期時に扁桃体が賦活する研究が多いが、本研究では快情動予期のほうが増大していた。先行研究には健常者群で情動間で扁桃体の賦活に差が無いという報告もある。扁桃体の機能の中で不快情動の生起に関与すると考えられているが、情動内容ではなく刺激による顕著性(saliency of stimuli)の処理に関与すると考えた方がよいという報告もある。本研究で用いた情動喚起スライドのIAPSは情動価とは別に覚醒度(arousal)という軸もあり情動予期条件間で同じに揃えているので、快情動予期と不快情動予期で同程度に顕著性を生じさせ、扁桃体を活性化させたのかもしれない。(不快情動予期だけで扁桃体が賦活したNitschkeら(2004)の先行研究は非生物の素材で顕著性が低かったので、情動価だけに反応にしたのだろう)。
・先行研究では、CPTを完全に遂行すると痛み刺激の予期に対する扁桃体の賦活が下がることが示されている。
・本研究ではwhole-brain anaysisではあらかじめROIとして考えていた部位以外の場所でも課題に関連した活動が見られた。例えば前頭前野や、側頭葉、後頭葉などである。これは情動関連領域に対する課題特異性が低いということになるが、他の先行研究でもそのような傾向はあった。しかしながら、本課題は情動予期の島皮質と扁桃体の賦活が薬剤で抑制されたので、新規の抗不安効果を検討するには有用である。

という研究。

これは非常に重要な研究だと思った。
プレガバリン(商品名はリリカ)は感覚信号の伝達に関与する細胞にある電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットを阻害しそれが関与する後々の神経伝達を抑制し、慢性疼痛などに鎮痛効果がある薬剤である。この薬剤が本研究のような中枢神経レベルで調節されるような不快情動や快情動の予期が生じる状況で賦活を抑制するのは大変興味深い。結果は必ずしも不快情動予期だけを減衰させるわけではない所が解釈がややこしいが、情動予期が持つ顕著性や覚醒の上昇といったものは情動の方向性・価値(快か不快かということ)によらず共通して生じる過程なのでこれを抑制することで主観的に感じられる興奮が沈むというような感覚に寄与するのだろう。
この薬剤が直接情動関連領域にある神経細胞、もしくはそれらに投射している神経細胞に作用するのか、そうでないかということである。もし、後者のような末梢に作用して抗不安作用があるのであれば非常に面白いと思う。例えばダマジオのソマティックマーカー仮説のような情動予期や、意志決定の前に生じる行動の記憶に随伴する体性感覚や身体反応の痕跡的な記憶は、もしかするとそれなりに末梢から中枢神経に投射する感覚神経をある程度部分的に賦活させるかもしれない。その過程にプレガバリンが作用して反応を減衰させて中枢の情動関連領域での神経伝達を減衰させるのであれば、不安や恐怖という情動は中枢神経だけのものではなく、痛みとかのような実体を持つ感覚も情動の生起に含まれるのではないか。それゆえ、不安や恐怖の減衰には、もちろんそれを生起する不快情動関連領域への直接的な制御が有効だけれども、直ちに閾上に上ってこない痛みや他の内臓感覚といった身体感覚に関わる神経系について一次ニューロンレベルでの抑制が二次以降、最後の中枢の不快情動の生成の抑制にも寄与するかもしれない。多分このような可能性は製薬会社も考えたことはないだろう。
既存の抗不安薬や抗うつ薬とは違う疼痛や身体感覚に関与する薬剤について、向精神薬になりうる可能性がありこうした薬剤の研究は今後も注目していきたい。

toyomaki
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2011年3月27日 (日)

抗うつ薬のミルタザピンの付加療法は統合失調症の認知機能障害を改善させる

More evidence on proneurocognitive effects of add-on mirtazapine in schizophrenia.
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2011 Mar 17.
Stenberg JH, Terevnikov V, Joffe M, Tiihonen J, Tchoukhine E, Burkin M, Joffe G.

アブストラクト全訳
統合失調症の治療において神経認知機能を改善させることは重要である。我々が以前に行った治療抵抗性統合失調症患者を対象とした抗うつ薬のミルタザピンを定型抗精神病薬に付加して6週間観察する無作為割り付け研究では、陰性症状だけでなく、陽性症状、認知機能障害も改善した。今回の研究はミルタザピンをもっと長期に付加するとより神経認知機能障害が改善するかどうかを検討することである。無作為に割り付けられた患者群で、オープンラベルでのミルタザピン付加療法を6週、12週投与できる患者を対象にした。結果について、6週以降の段階ではミルタザピン付加群とプラセボ投与群の双方で、複数の神経認知機能の領域の改善が見られた(豊巻注:これは認知機能検査の反復施行による練習効果)。6週まではプラセボで、それ以降はミルタザピンを付加された患者群は、最初から6週間ミルタザピンを付加された群と同程度の認知機能の改善であった(豊巻注:ベースラインと比べての改善が同程度)。さらに12週まで続けてミルタザピンを付加された群は6週まで付加された場合よりも、ストループ課題(干渉無しの条件)の遂行時間、Trail Making TestのB版の誤答数において有意な改善が見られた。ミルタザピンを抗精神病薬に持続的に付加することは、神経認知機能の障害を改善させると言える。それは長期に付加した方がより効果が現れる。ミルタザピンは統合失調症の認知機能改善薬として考えるとコストが安く、安全性の高い薬剤と言えるが、さらなる研究が必要である。

という研究。

時間があれば精読したいところだが、とりあえずアブストラクトの紹介までということですいません。
ミルタザピン(商品名リフレックス、レメロン)は四環系抗うつ薬であるが、多様な作用機序がある興味深い薬剤である。Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant:NaSSA(ナッサと発音)と呼ばれるカテゴリに入り、ノルアドレナリン、セロトニン系を促進し、短時間で効果が発現する。
神経認知は、注意、記憶、言語、処理速度、遂行機能などの情報処理的な認知処理を指す概念である。
神経認知機能がミルタザピンの付加によってさらに改善するというのは、1つは陰性症状とパラレルな状態依存的な認知機能の低下が改善した可能性と、精神症状とは独立する純粋な認知機能障害が改善した可能性が考えられる。
それでミルタザピンの改善効果は多様な可能性があるだろう。
ノルアドレナリンのα2受容体のアンタゴニストとして、ノルアドレナリンの放出を促進し、一部の認知機能を改善させる可能性。α2受容体は自己受容体と呼ばれシナプス前細胞にあり、これを抑制するとフィードバックとしてノルアドレナリンの放出が促進される。前頭葉でのノルアドレナリンの放出促進は認知機能や抑うつ、陰性症状の改善に寄与する。
セロトニン作動性ニューロンに投射するノルアドレナリン作動ニューロンにおいて、ノルアドレナリンのα2受容体のアンタゴニスト作用がセロトニン作動性ニューロンを刺激して、次に、それが投射する細胞のうち、5HT-1A受容体を持つ細胞を刺激して、抗うつ作用、抗不安作用、ひいては5HT-1A促進は前頭前野でのドパミン放出を促進するので、これによる陰性症状、認知機能障害の改善に寄与する、という可能性がある。
さらに、5HT2受容体のアンタゴニストとして、ドパミンの放出を促進し、一部の認知機能障害を改善させる可能性。腹側被蓋野から前頭前野に投射するドパミン作動性ニューロンに分布する5HT-2A受容体は抑制的に作用するが、これを薬剤によって阻害することで脱抑制が起こり、前頭前野でのドパミン放出を促進し陰性症状や認知機能障害を改善させる可能性がある。
またまたさらに、ミルタザピンは5HT-3受容体のアンタゴニスト作用がありこれが消化器症状の改善や制吐剤としての効果もあるが、このブログで以前に取り上げたように中枢神経系では抗不安作用や記憶増強作用があるので、このことが抗不安作用、認知機能改善に寄与する可能性もある。
他にも5HT-2阻害作用がGABA作動性ニューロンを抑制して、それが抑制しているノルアドレナリン作動性ニューロンを活性化するという機序もある。
ということで、ミルタザピンの多様な作用機序のおかげで、陰性症状とパラレルな認知機能障害(認知機能低下状態、あるいは発揮困難状態という言うのが正しい)と中核障害としての認知機能障害に、どの作用機序がどの程度関与するかは不明確である。
認知機能改善薬を考えるとき、特に後者の中核的な認知機能障害を改善させる薬剤というのが強く望まれるが、いずれにしてもミルタザピンはそれぞれの作用機序が認知機能障害に対して緩やかな改善効果があって、それらの総和として、認知機能検査で計られる障害が改善するくらいの効果に寄与するのだろう。

今後ミルタザピンが認知機能障害に改善効果があることを強く支持する研究としては、やはり機能画像と組み合わせて認知機能を発揮させる課題関連の前頭葉などでの神経活動が投与前後で上昇することを示すことであろう。神経伝達機能の調節作用が確かに認知機能発揮時の神経活動を調節することを示すことがとても重要である。
また、ミルタザピンが持っている5HT-1A促進作用と、5HT-3阻害作用は、他の薬剤がより純粋に持っており情動と認知機能を改善させるエビデンスが出ているので、それらと比較する試験を行うことで、ミルタザピンの臨床的な有用性がより明らかになるかもしれない。
例えば、5HT-1A促進剤のタンドスピロン(ブスピロン)の付加療法と比較する、5HT-3阻害剤(オンダンセトロンとか複数ある)の付加療法と比較するという試験が出来れば面白いだろう。

toyomaki

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2011年1月24日 (月)

パリペリドン徐放剤の至適用量はPETを用いたD2受容体占有率の計測から6~9mg/dayであると推定される

Dose-finding study of paliperidone ER based on striatal and extrastriatal dopamine D2 receptor occupancy in patients with schizophrenia.
Arakawa R, Ito H, Takano A, Takahashi H, Morimoto T, Sassa T, Ohta K, Kato M, Okubo Y, Suhara T.
Psychopharmacology (Berl). 2008 Apr;197(2):229-35. Epub 2007 Dec 6.

アブストラクト全訳

パリペリドン徐放剤(Paliperidone ER)は成分が徐々に放出されるように工夫された新規抗精神病薬である。全ての抗精神病薬について言えることだが、副作用をあまり起こさないためには慎重な用量設定が必要である。
本研究では統合失調症患者を対象にパリペリドン徐放剤を用いてPET計測による線条体と線条体以外の脳部位におけるD2受容体の占有率について計測し、この薬剤の最適用量を推定する。
13人の男性の統合失調症患者を対象とした。パリペリドン徐放剤を6週間、用量を固定せず投与した。6人は1日3mg、4人が9mg、3人が15mg投与された。パリペリドン徐放剤投与開始後、2週から6週の間でPET計測が行われた。計測は同日に2回行われ、1つは[11C]raclopride(ラクロプライド)を、他方は[11C]FLB 457をトレーサーに用いて撮像された。投与量とパリペリドンの血漿中濃度、PETによるD2受容体の占有率の関係を分析した。
結果は、[11C]racloprideを用いた線条体のD2受容体占有率と11C]FLB 457を用いた側頭葉皮質におけるD2受容体占有率は、それぞれ54.2~85.5%、34.5~87.3%であった。線条体、側頭葉皮質における50%有効量はそれぞれ2.38と2.84mg/dayであった。D2受容体の占有率は線条体と側頭葉皮質で有意差は見られなかった。本研究のデータからパリペリドン徐放剤は6~9mgで、D2受容体を70~80%占有することがわかり(注:一般に抗精神病薬はD2受容体を70~80%占有すると抗精神病作用があるとされる)、それは線条体と側頭葉皮質で同様であることが分かった。

注1:extended-release (ER) formulationは徐放剤のことで、成分が徐々に放出されるよう工夫された薬剤で、血中濃度が急激の上昇しないので効果の持続時間が長く、副作用が少ないことと服用回数が少なくてすむ。
注2:ED50 valuesは50%有効量のことで、薬物濃度を横軸、生体の特定の反応を縦軸に取ったときに薬物の投与量と反応の関係を示した用量-反応曲線 dose-response curveが描かれるが、最大反応の50%の反応を引き起こす薬物濃度が ED50値である。

という研究。
パリペリドン(商品名インヴェガ)は世界で最も用いられている非定型抗精神病薬の1つであるリスペリドン(商品名リスパダール)の活性代謝産物であり、リスペリドン同様の抗精神病作用がある。
本研究は放射線医学総合研究所が得意とするPETによる受容体占有率の測定により、ヒトで非侵襲的な形で新規薬剤の至適用量を推定するdose-finding研究である。
パリペリドンとリスペリドンの薬物プロフィールは実はいろいろ違っていて、臨床精神薬理13巻11号の村崎先生の記事のアブストラクトがオンラインで読めるがそこに簡単に記されている。
セロトニン/ドパミン濃度比がリスペリドン7.1に対してパリペリドン1.5と小さい
ドパミン3受容体に対する阻害作用が高い
アドレナリンα2受容体に対する阻害作用が高い
などが分かっている。
本検討では単純にD2受容体の占有率を計っているので、SDA以外の上記の特異的なプロフィールがどこにどう作用しているか不明であるが、行動課題遂行時の機能画像を用いてリスペリドンと比較すると興味深いだろう。

また本検討では線条体と側頭葉で同じ占有率であったことが興味深い。これまで統合失調症のドパミン仮説は専ら線条体の過剰な神経伝達効率で説明されているが、この研究から間接的ではあるが幻聴に関わる側頭葉のドパミン神経伝達亢進が背景にある可能性があり、なかなか興味深い。妄想・幻覚はかなり高次な認知処理の異常であり、精神薬理学の視点からは線条体を含む大脳基底核に注意が向くけれども、認知神経科学の視点からは前頭葉-側頭葉の機能的結合に注目する方が重要であると思う。
統合失調症のドパミン仮説を支持する薬理学動態の関心領域が線条体から皮質に移行することを示唆する研究がもっと出ることを期待したい。

toyomaki
toyomaki

2011年1月21日 (金)

論文の読み方3:精読の仕方と情報を整理する

英語論文の読み方の続きです。
前回のまとめも兼ねて、精読に必要なPCソフト(Windowsです)について紹介します。
PDF-XChange Viewer
論文はPDFファイルで入手し、それを閲覧しますが、ビューアーのソフトとして、PDF-XChange Viewerが最適だと思います。軽いソフトなので起動が速いことと、ハイライトや下線を引いたり、コメントを書き入れたりといった編集が出来ます。また1つの論文を読んでいてちょっと飽きて集中が続かない時、別な論文を読むことがありますが、タブ形式でファイルが扱われるので、1つのウィンドウで表示できてファイルの切り替えが容易です。
基本的にアブストラクト→序論→方法…と順番に精読していきます。序論、考察では先行研究の紹介の記述が多いのですが、自分にとって重要だと思われる記述はコピーしてememopadにペーストします。その際、僕はコピペした記述に下線を引いて、コピペしておいたことが分かるようにします。また著者の主張やとにかく重要だと思った部分もememopadにコピペしますが、黄色でハイライトしておきます。
また、細かいことですが、コントロールキーを押しながらマウスのスクロールボタンを回転させると拡大、縮小表示が簡単に行えます。だいたい150%から200%くらいに拡大して見ることが多いです。またページの表示ですが、画面に1ページ表示するのではなく、連続表示にした方が、ページの上部や下部の拡大表示がうまくいきます。

ememopad
論文の中の先行研究の紹介や、その他の重要な記述をまとめて整理するためのテキストエディタ(アウトラインプロセッサ)です。以前は僕は1つの論文につき、1つのememopadファイルを作成していましたが、同時にかなり多数の文献を読むようになり、いちいちememopadファイルを立ち上げるのは面倒なので、1つのememopadファイルで、読んでいる全ての論文の情報を書き留めることにしました。それでememopadの左側のウィンドウのツリー構造は、「統合失調症関連」とか「Dyslexia関連」などとテーマ別にカテゴリー化されて、一番下のツリーはファイル名にしています。読了した文献は「読了」と記しておくとわかりやすいと思います。PDFファイルのファイル名は研究者によって様々なポリシーがあるかと思いますが、僕は現時点ではその論文についての様々なカテゴリー名を中括弧[]で書いて、最後に第1著者のラストネーム、発行年としています。例えば[dyslexia][M系]Boden2007などという感じです。カテゴリーは、例えば疾患名や研究手法、主な注目している脳部位、などといった感じでしょうか。あまり長い綴り字のものは打ち間違うことがあるので短縮しています。例えばSchizophrenia→SCZ、magnocellular系→M系などという感じです。
ememopadの一番下のツリーは1つの論文の情報をまとめるページになりますが、まずPDFビューアーから、最後のReferenceを全てコピペしてememopadに貼り付けます。そうするとそのウィンドウの上からずっと文献情報になりますが、複数行、改行して、スペースを空けてください。文献を読んでいって、①知っておくべき先行研究、②自分が将来書くかもしれない論文で役に立つ英文記述、③この論文で初めて出てくる著者の主張やその他とにかくその時の自分にとって重要だと思った記述、を英文のままコピペします。そしてコピペした英文の上の行に簡単に一言程度で要約したものを日本語で書きます。この時に、その先行研究が当該テーマの重要な初出論文である(どの文献でも必ず引用されるような文献)であれば【初出】などとタグを付けておくと視認性が高まり後で調べる時に便利です。その他【重要】とか【役に立つ英文記述】などと書いておくと良いでしょう。コピペした英文記述の下の行には、正確な書誌情報を書きます。最初にPDFファイルからまとめて引用文献を貼り付けましたが、そこから引用文献を探して、コピペした情報の下の行に貼り付けます。このようにして、1行目は日本語でまとめたもの、2行目以降の複数行はPDFファイルからコピペした英文記述、その後の複数行はその英文の根拠となっている先行研究の文献の書誌情報、という格好になります(下図を参照)。

Paper1

それでここから先ですが、読み終わった後どうするのか、ということを書きます。
mindmanager
テキスト情報のカテゴリ分類の視認性に長けたソフトを用います。世間ではいわゆるマインドマップと呼ばれるものを作成するもので熱狂的に支持されている向きがありますが、マインドマップは認知科学をやっている僕からしても脳はこのような単純なカテゴリー分類で情報が貯蔵されているとは思いませんし、特段頭が良くなるとか創造性が増すという感じがしません。とにかくテキスト情報のカテゴリ分類と関係性の表現が優れている視認性の良い表現方法の1つであって、それ以上のものではないかなと思います。
それはそれとしまして、1本ではなく複数の文献を読んでからのほうが良いと思いますが、先行研究についての情報がかなり蓄積されてきます。完璧に長期記憶に保持されたら全く問題無く、とても素晴らしい事ですが我々はそうではありませんので、必要に応じて思い出せるように外に保持することが大切です。そこでmindmanagerを使って下図にあるように、ある大きなカテゴリー1つにつき、1つのmindmangerファイルを作成し、適宜下位カテゴリーを作成した後、1つの項目にはememopadファイルの1行目の日本語要約を貼り付けます。そしてここでコントロール+tキーを押すと、その項目についてさらにテキストで詳細に記述するウィンドウ(その項目についてのノート)が出てきます。この部分に、2行目以降の英文記述と引用文献の書誌情報をコピペします。このようにしてある当該テーマに関してどんな事が分かっているかが視認性高く網羅的に分かる、それぞれの根拠となる原著論文の書誌情報はどうなっているかも項目のノートを開くと分かる、さらに自分が将来論文に書くときに英作文の参考になる、という格好になります。

Paper3

といった一連の流れが精読した文献を将来の生産(論文執筆)を考慮して徹底的に生かす効率的な方法ではないかなと思います。

またオプションですが、僕はDDWINというEpwing形式の辞書をまとめて簡単に検索できるソフトを使っています。このソフトに英語辞書をあれこれ入れておいて、論文読むときにを立ち上げておきます。クリップボードから検索するというようにします。PDFファイルを読んで分からない単語があったときに、その単語の部分にカーソルを持って行ってダブルクリックすると、その単語だけ選択されます。そしてコントロール+cキーを押してコピーして、DDWINのソフトのウィンドウを選択すると検索されて内容が示されます。この作業は1,2秒程度で大変効率が良いと思います。(バビロンとかもっと速い辞書ツールも良いかもしれません)

Google desktopはPC内のほとんどのファイルを検索するのに役に立つソフトです。僕の使い方は、まず論文の情報を書き留めているemeopadを立ち上げて、それから最も下のツリーの見出しがファイル名になっているのですが、このファイル名を選択してコピーします。そしてコントロールキーを2回押すとgoogle desktopが立ち上がります(ショートカットキーです)。そこにペーストするとそのPCの中にあるそのPDFファイルがすぐに見つかります。このようにして、PDFファイルのあるディレクトリまで行って開くのではなく、ememopadからgoogle dektop経由で行く方が時間的にも速く、どこにおいても必ず見つかります。

dropboxは代表的なクラウドサービスの1つで複数のPCに特定のディレクトリをオンタイムで共有してくれる大変便利なソフトです。僕は大学や自宅のPC、出先ではノートPCで作業するので、複数台のPCを使います。それぞれの場所で論文を良く読むので、PDFファイルは全てdropboxで同期しているフォルダ内に入れておきます。ついでにememopadのファイルもdropboxに入れておきます。こうすると大学で読んで、保存して、帰宅して同期してくれて、同じ状態で開いて作業することが出来ます。ememopadもPDFファイルもローカルに保存されているので上記のようにgoogle desktopで検索して開くことが出来ます。

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2010年10月 6日 (水)

制吐剤のオンダンセトロン(セロトニン5HT3受容体阻害剤)の付加療法は統合失調症の陰性症状と認知機能障害(記憶)を改善させる

Added ondansetron for stable schizophrenia: A double blind, placebo controlled trial
Shahin Akhondzadeh et al.
Schizophrenia Research 107 (2009) 206.212

アブストラクト完訳
5HT3受容体は統合失調症の精神症状や認知機能障害に関与することはよく知られてきた。本研究の目的は5HT3受容体アンタゴニストのオンダンセトロンが慢性の統合失調症の治療、特に認知機能障害の治療の補助剤になるかどうかを検証することである。精神症状が安定している慢性の統合失調症患者に2重盲険法でオンダンセトロンを12週間投与した。30人の通院、入院患者を対象とした。全ての患者はDSM-Ⅳ-TRで統合失調症と診断された。条件を適切に設定するために、主剤としてリスペリドンを用いていて最低8週間、容量を固定して治療を受けている患者を対象とした。患者は15人ずつ無作為に割り付けられ、オンダンセトロン(8 mg/day)か、プラセボが、それぞれリスペリドンに加えて付加された。精神症状はPANSSを用いて評価した。認知機能は認知機能検査を用いて評価した。評価は、付加療法開始前、開始後8週、12週で行われた。PANSSと認知機能検査が付加療法のアウトカム指標として用いた。オンダンセトロン使用群では、試験中において陰性症状尺度得点と総合精神病理尺度得点、PANSS総合得点が改善した。またオンダンセトロン使用群ではWMS-Rの下位検査である視覚性再生、視覚性対連合、図形の記憶で改善が見られた。本研究から、オンダンセトロンは慢性の統合失調症の特に陰性症状や認知機能障害に対する補助的な治療薬になることを示した。

序論
定型抗精神病薬は50年以上前から用いられてきたが、有効性と忍容性には限界がある。定型抗精神病薬を用いても精神症状が持続したり、機能レベルが低下したり、不快で生活に支障をきたす副作用が起きたりする。統合失調症では認知機能障害が現れ、その重傷度は精神症状以上に機能的予後に影響することが知られている。
認知機能障害は統合失調症の患者の75~85%で顕在化しており、多くが発症前から現れている。主に障害されている認知領域は言語流暢性、作業記憶、実行機能、持続的注意、視空間認知課題、処理速度である。定型抗精神病薬や非定型抗精神病薬で適切に治療を受けても認知機能障害は持続して存在する。抗精神病薬に顕著な認知機能改善効果が無いことから、認知機能障害を標的とした多剤併用療法の開発が促進された。
5HT3受容体は多様な機能から統合失調症の認知機能障害を改善させる可能性があると考えられていた。動物での行動薬理学的研究では、5HT3アンタゴニストは抗不安作用、記憶増強作用があることが知られている。例えば、ラットで辺縁系にDA、アンフェタミン、2メチルセロトニンを注入すると運動量が増大するが、オンダンセトロンの注入はそれを改善する。5HT3アンタゴニストは統合失調症の認知機能障害を改善させる新規薬剤になるうると考えられていた。オンダンセトロンを用いた小規模の研究、症例報告では精神症状、運動系の副作用をに効果がある。オンダンセトロンの短期間の投与ではレイ複雑図形による視空間記憶課題の成績が改善する。オンダンセトロンは慢性患者、治療抵抗性患者のハロペリドール治療を増強し陰性症状、認知機能障害を改善させた。

方法
・対象
30人の統合失調症患者が参加した。28人が外来患者であった。女性11名、男性19名であった。22歳から44歳までであった。DSM-Ⅳ-TRで診断した。少なくとも4週以上は精神症状が変化しない(PANSSで20%未満の変化)患者を対象にした。患者をオンダンセトロン(8 mg/day)群とプラセボ群に無作為に割り付けた。

・認知機能検査
神経認知(情報処理的な認知機能)は6領域について評価した。実行機能はWisconsin Card Sorting Test、視覚性記憶はWMS-Rから3つの下位課題、言語性記憶はWMS-Rの論理記憶と言語対連合を用いた。作業記憶と注意を評価するためにWMS-Rから数唱課題を用いた。WAIS-Rの積み木課題は構成能力を見るために行った。
・アウトカム指標(12週後に評価したもの)
精神症状についてPANSS、認知機能検査、錐体外路症状についてExtrapyramidal Symptoms Rating Scale (ESRS)
・統計分析
PANSSについて、評価時点と群間についての2要因反復測定分散分析を行った。認知機能検査についてはt検定を行った。ベースライン・オンダンセトロン付加群、ベースライン・プラセボ群、エンドポイント・オンダンセトロン群、エンドポイント・プラセボ群との間での比較を行った。人口統計学的指標と副作用の頻度については、フィッシャーの正確確率検定を行った。全ての検定は両側検定であり、有意水準は5%とした。

結果
・陽性症状:ベースライン時、12週後のそれぞれの時点ではオンダンセトロン群とプラセボ群で差は無かった。それぞれの群で計測時点間での有意な変化は無かった。
・陰性症状:ベースライン時では2群では有意差は無かった。オンダンセトロン群はベースライン時よりもエンドポイント時では有意差があり、症状が改善した。エンドポイント時ではオンダンセトロン群はプラセボ群よりも有意に症状が改善していた。
・総合精神病理尺度:ベースライン時では2群では有意差は無かった。オンダンセトロン群はベースライン時よりもエンドポイント時では有意差があり、症状が改善した。エンドポイント時ではオンダンセトロン群はプラセボ群よりも有意に症状が改善していた。
・PANSS総合得点:ベースライン時では2群では有意差は無かった。オンダンセトロン群はベースライン時よりもエンドポイント時では有意差があり、症状が改善した。エンドポイント時ではオンダンセトロン群はプラセボ群よりも有意に症状が改善していた。
・認知機能検査:ベースライン時では2群では有意差は無かった。エンドポイント時では、オンダンセトロン群はプラセボ群よりも、視覚性再生、視覚性対連合、図形の記憶で成績が改善していた。
・その他:HAM-Dによるうつ病の重傷度は群間差、評価ポイント間の差は無かった。ESRSによる錐体外路症状はプラセボ群においてエンドポイント時で悪化していた。

考察
幾つかの先行研究で5HT3アンタゴニストが統合失調症の精神症状・認知機能床以外を改善させることが示されていたが、ダブルブラインドによるオンダンセトロンの付加療法を行った本研究でも、陰性症状や認知機能障害(特に記憶)が改善することが示された。
また、オンダンセトロン内服群では錐体外路症状が軽減しており、忍容性が高いことが示された。
ヒトにおいて5HT3受容体は前頭前野、側坐核、海馬体、扁桃体に多いので、5HT3受容体は意欲・動機付け、情動を調節する機能がある。
リスペリドンは他の抗精神病薬よりも5HT3受容体結合能が高い。リスペリドンは5HT3受容体に関して、シナプスのポスト側の受容体に作用し、オンダンセトロンはプレ側の受容体に作用する点で影響が異なる。この違いはリスペリドンのほうがオンダンセトロンよりも受容体への親和性が低いことが寄与する。オンダンセトロンは5HT3受容体阻害作用を増強するといえる。

という研究。
これは非常に重要な論文であると思う。
統合失調症の陰性症状、認知機能障害を付加療法(add on)として改善させようという試みはいろいろあるが、5HT3受容体は非常に有力な標的であると思われる。

もともとオンダンセトロン(商品名ゾフラン)は化学療法を受けているがん患者の制吐剤として使われる薬剤である。
その他に5HT3アンタゴニストの塩酸ラモセトロン(商品名イリボー)はアステラス製薬が出しているIBS(過敏性腸症候群)の男性患者に適応のある薬剤である。
末梢においては腸に5HT3受容体が多く、その阻害作用は蠕動運動を抑制するので制吐剤として用いられるのであるが、複数の統合失調症を対象とした臨床研究で認知機能障害や、統合失調症で割と特異的な所見が出てくる聴覚誘発電位のP50成分の異常が改善することが知られており、これはとても末梢の腸に対する作用では説明できない。
これらの薬剤は脳内移行が低いので、人においては脳に局所注入できる動物の行動薬理研究の知見は適用できないと思われているが、腸の機能性疾患ではない統合失調症において陰性症状、認知機能障害、知覚過敏の問題が改善するというのはやはり内服によってであっても、脳内に移行し特に5HT3受容体が多くある辺縁系において作用していると言える。

そもそも制吐剤としての作用は脳腸相関の末梢側の方を調整するということになっているが、もしかすると脳側に作用している可能性もある。
脳腸相関の一般的説明では、ストレッサーによるストレス体験が交感神経系を通して腸でのアウエルバッハ叢でのセロトニン分泌を促進して、腸の蠕動運動を促進して腸由来の不快な内臓感覚が経験されるというものである。
しかし腸の感覚経験は中枢神経系の島皮質がコード化している。島皮質は意識的な注意に関わる前部帯状皮質や不快情動生成に関わる扁桃体との神経結合が強い。もしかすると、IBS患者や身体表現性障害のある気分障害、不安障害患者では、慢性的・持続的な島皮質、扁桃体、前部帯状皮質などを中心とする機能的結合の増強のようなものがあって、内臓感覚の閾値の低下(内受容感覚全般による身体感覚一般とでもいうものだろう)があって、末梢から通常の信号が上行してきても過敏に処理されるのかもしれない。
他方で、特性不安といった比較的長期間維持される不安状態は海馬が関与するので、こうした不快情動関連処理、内受容感覚過敏処理に関わる機能的結合に、時間的に長期的に保持するシステムとして海馬の関与があってこうした状態像を形成するかもしれない。
こう考えると、5HT3受容体は辺縁系に多いわけであるが、5HT3受容体アンタゴニストが脳内に移行し上記の機能結合に調節的に作用することで感覚過敏と不安を減弱するという意味での抗不安作用として説明できるかもしれない。例えば、海馬におけるアセチルコリン作動性ニューロンに分布する5HT3受容体の刺激は抑制性に作用するが、5HT3アンタゴニストによってアセチルコリン作動ニューロンを脱抑制して海馬機能の向上に寄与する。

個人的には、統合失調症の外受容性刺激に対する感覚過敏とIBSなどの内受容性の感覚過敏のメカニズムの異同と薬理学的介入の可能性について考えていきたい。
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2010年10月 2日 (土)

シグマ受容体(σ受容体)のうつ病、認知機能障害への効果の作用機序

前にSSRIのフルボキサミンが認知機能障害への改善効果があることを書いた。

なぜフルボキサミンが効果があるのかについて、あまり情報がなかったが、Progress in Medicine Vol.29 No.9 2009.9という雑誌で、「シグマ受容体リガンドとしてのFluvoxamineの臨床的有用性を考える」という対談記事があって、千葉大の橋本先生が解説しておられた。

それを以下に要約した。(ここでのシグマ受容体はシグマ1受容体です)

シグマ1受容体は分子量25.3kDa 、233個のアミノ酸からなる 膜2回貫通型受容体 小胞体に多く、小胞体タンパクである。
歴史的には1976年、Martinらがオピオイド受容体のサブタイプであると提唱した(後に否定される)。
機能としては小胞体内で分子シャペロンとして働く。シャペロンとは2次元のポリペプチドを3次元構造への変換をサポートし、目的部位までの輸送する機能である。
シグマ受容体ばイノシトール3リン酸受容体の分子シャペロンである。シグマ受容体への刺激によって、情報伝達過程があり、NMDA受容体を介してグルタミン作動性ニューロンを制御する。
また、軸索伸張作用を促進する効果がある。

SSRIのフルボキサミンはどの抗うつ薬よりもシグマ受容体への親和性が高い(下図参照)。

Ssri_2

in vitroの研究で、フルボキサミンは神経成長因子によって誘発された樹状突起伸張作用が容量依存的に促進した。
また、PCP(NMDA受容体阻害剤)を10日間投与した統合失調症の認知機能障害モデル動物で、フルボキサミンを投与すると記憶課題の成績が改善した。この効果はまたシグマ1受容体アンタゴニストを併用するとこの効果は消えるので、SSRIとしての機能ではなく、シグマ受容体促進作用が特異的に記憶機能を上げたと考察できる。

という内容。

シグマ受容体についてかなり理解が進んだ。

まだこの受容体については未知の部分もあるようだが、作用機序についてほぼ決定的なことが分かっているのだなあと思った。
うつ病では、シグマ受容体刺激への軸索伸張作用によるうつ病や記憶機能の改善に寄与し、NMDA阻害作用と関連する認知機能や陰性症状が分子シャペロンとして機能する情報伝達系を介して、改善させるということで、広く応用できる薬剤であると思う。
また、まだ詳しく見ていないがすでにPET研究もあって、シグマ受容体が存在する部位などが分かっているようであるので、その点からもシグマ受容体の心理機能への影響について推測できるかもしれない。
また今度紹介したいと思う。

toyomaki

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2010年8月 3日 (火)

NMDA受容体のアンタゴニストのケタミンは双極性うつで急性の抗うつ効果がある

A Randomized Add-on Trial of an N-methyl-D-aspartate Antagonist in Treatment-Resistant Bipolar Depression

Nancy Diazgranados et al
Arch Gen Psychiatry. 2010;67(8):793-802.

双極性うつの薬物治療に関して、治療を開始してから薬物の効果が発現するまで時間がかかることが知られている。薬物療法としてすぐ効果が発現する(例えば数時間で)ような治療戦略は患者や公衆衛生に多大なインパクトをもたらすだろう。本検討はNMDA受容体のアンタゴニストを用いて、双極性うつに対して素早い抗うつ効果が見られるかどうかを検討した。対象患者を無作為抽出し、二重盲検比較試験によって、通常治療にNMDAアンタゴニストを付加した(add-on)。2006年10月から2009年7月までの期間行った。メリーランド州のNIMHのうつ病研究ユニットで行われた。対象はDSM-Ⅳの診断を満たす双極性障害のうつ病患者18名であった。治療抵抗性であった。
患者はリチウム、もしくはバルプロ酸で治療を受けており、さらにNMDAアンタゴニストのケタミン塩酸塩(0.5 mg/kg)を2週間の間をあけた2日間で静脈注射した。プラセボ群はプラセボを同様に注射した。うつ病の評価は、MADRAS(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale)を用いて、注射後40分、80分、110分、230分、1日後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後に評価した。
結果は、プラセボ群と比較してケタミン注射後40分でうつ症状が有意に改善した。この改善は3日後まで続いた。ケタミン、プラセボのeffect sizeの差が最大になったのは2日後であった。被験者の71%はケタミンによってうつ症状が改善し、6%はプラセボで改善した。ケタミンを投与された1名とプラセボを投与された1名が躁転した。ケタミンの忍容性は高かったが、主な有害事象は解離性症状で投与後40分でしか見られなかった。
結論として治療抵抗性の双極性うつに対してNMDA受容体のアンタゴニストの単回の投与は頑健で高速の抗うつ効果があることが示された。

という研究。
精神医学のトップジャーナルであるArchives of General Psychiatryの論文です。
ケタミンはグルタミン酸受容体の1つであるNMDA受容体の数あるアンタゴニストの1つで、動物やヒトの麻酔として用いられているが、麻薬に指定されている薬剤でもある。
ネスラーの分子神経薬理学では乱用薬物、耽溺性薬物は脳報酬刺激(brain stimulation reward)を促進する、つまり報酬系が活性化しやすくなると記述されている。そして耽溺性薬物としてはアンフェタミン類、コカイン、オピエート類、ニコチン、フェンサイクリジン、ケタミン、カンナビノイド類、ベンゾジアゼピン類、バルビツール酸類、エタノール類などが含まれると書かれてある。このうち、ケタミンやフェンサイクリジンはNMDA受容体のアンタゴニストである。耽溺性薬物は最終的には意欲・動機付けの最も中核的な神経基盤である側坐核を活性化して多幸感や条件刺激と行動の強化を促進するということで、ケタミンも皮質などから直接側坐核に抑制的に投射するグルタミン作動性ニューロンを阻害することで、側坐核をだつ抑制して、意欲・動機付けの神経基盤の最も中核的な神経基盤に作用するわけである。
この報告以前にも大うつ病性障害での臨床知見も報告されており抗うつ効果があることが知られている。

こうした急性的な抗うつ効果や報酬系を向上させるような薬剤と認知行動療法のような認知の矯正・強化を標榜する介入を行うと相乗作用で高い改善効果があるんじゃないかと思うがどうなんだろうか。

toyo

toyo

2010年7月12日 (月)

うつ病を合併する過敏性腸症候群患者で抗うつ薬にセロクエルを付加すると先に消化器症状が改善する(症例報告)

Quetiapine in the treatment of refractory irritable bowel syndrome A case report
Ana Martin-Blanco et al
Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry 34 (2010) 715?716

2010年4月から大型の研究費で雇用されているのですが、その研究プロジェクトは心身相関、脳腸相関に関わる基礎から臨床までのtransrational researchを標榜しています。それで僕もこれらのテーマに関わった特にヒトを対象とした研究を立案、遂行しなければなりません。
それで過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;以下IBS)に興味があって、少しずつ勉強しています。

本症例報告の要約(アブストラクトが無いので自分で要約した)
IBSは下痢や腹痛によって特徴付けられる消化器疾患で5から20%の有病率である。精神疾患と合併率が高く、IBSの30%が不安障害と、26%がうつ病と、50%が身体化障害と合併する。今回、うつ病を合併するIBS患者で、セロクエル(非定型抗精神病薬の1種)を付加したところ、消化器症状が改善した例を報告する。
32歳の女性。重度の大うつ病性障害で精神病や境界型人格障害、メランコリーの特徴はない。反復性のエピソードがある。IBSはローマⅢ基準で診断された。4ヶ月間うつ状態が持続していた(抑うつ、無感情、自殺念慮、不安、不眠、体重減少)。さらにIBSの症状も重篤であった(腹痛と1日十回の下痢)。これらのため、自尊心が低下して社会的孤立感が強い状態であった。薬物治療はベンラファキシン(SNRI)150mg/day、トピラマート(抗てんかん薬)150mg/day、ディアゼパム(抗不安薬)10mg/day、ロペラミド(整腸剤)8mg/day、スコポラミン(抗コリン剤、整腸剤)30mg/dayであった。ベンラファキシンは300mg/dayに増量して3週間観察したところ、抑うつ症状は改善したがIBSは改善した無かった。そこで、抗うつ薬の増強療法としてセルクエル100mg/day(Quetiapine XR, クエチアピン徐放錠)を付加した。2週間後で腹痛や下痢などのIBS症状は完全に治癒した。2ヶ月後に抑うつ症状も寛解した。
(途中省略)
IBSの治療にはいろいろな可能性がある。認知行動療法もあるし、以前にセロクエルを使った抗うつ薬の増強療法の報告もある。本症例はIBSとうつ病が相互に悪影響を及ぼしていたと考えられるが、セロクエルの付加は先にIBSの症状を改善させたので、抗うつ効果→IBS改善、という流れではなく、IBSに直接的な作用を持つ可能性が示唆された。
セロクエルは非定型抗精神病薬で、多様な受容体に親和性がある。例えばH1アンタゴニスト、5HT-1Aアゴニスト作用が腸の収縮を減少させて腹痛を軽減したのかもしれない。ムスカリン性アンタゴニスト作用が腸内分泌を抑制して下痢を減少させているかもしれない。セロクエル単独の、あるいは抗うつ薬との併用による鎮静効果が心理ストレスを減少させたかもしれない。IBSでよく見られる睡眠障害をセロクエルが改善したかもしれない。
さらには、神経新生を促進する因子であるBDNF(神経成長因子)をセロクエルと抗うつ薬の併用が促進したのかもしれない。というのは、IBS患者では過剰な痛覚認知処理のために前部帯状皮質の皮質密度(多分神経細胞部数に相当する)が減少していることが知られているからである。

という研究。
IBSにセロクエルがうつ病改善による2次的な作用、ではなく、うつ病改善に先立つ1次的に作用していることを示唆する報告で大変興味深い。
日本では男性のIBS患者でイリボー(塩酸ラモセトロン, 5HT-3アンタゴニスト、図らずもセロクエルと同様アステラスで販売されています)が使われているが、確かに腸に5HT-3受容体があるが、脳にも分布し、動物実験では抗不安作用があることが知られている(ネスラーの分子神経薬理学183ページ参照)。
そしてIBSと全く関係無いが、統合失調症の聴覚性誘発電位でP50成分を指標としたsensory gatingの一連のテーマがあるが、統合失調症で高頻度で見られるP50抑制障害は定型抗精神病薬、クロザピンを除く非定型抗精神病薬では改善しないことが知られている。そこで、従来の薬物治療を受けている患者に5HT-3アンタゴニストを付加的に投与するとP50抑制障害が改善することが知られており、僕としては5HT-3アンタゴニストは、脳に作用してある種の感覚刺激に対する内受容感覚に対するゲイン(増幅処理)を減少させる作用があるのではと考えていた。
IBSに対するイリボーの改善効果は、腸に作用して末梢由来の感覚情報の減少という部分と、ある程度は脳内移行して(かなり量は少なくなるが、、、)、不快情動関連領域、最終的には内臓感覚の受容野である島皮質の活動を調整しているのではないかと思っている。
今回のセロクエルのIBSに対する改善効果も多分、抗うつ効果の増強や末梢での作用ではなく、中枢レベルで説明できる過程のような気がする。ただ、セロクエルは5HT-3受容体への作用は無いようだし、統合失調症のP50の知見でもセロクエルの切り替え、単剤治療がP50の改善に寄与するということは知られていないので、おそらく別の作用機序で最終的にIBSを改善させると考えるべきだろう。

toyomaki

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